岩波文庫
ムッシュー・テスト

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  • サイズ 文庫判/ページ数 196p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784003256039
  • NDC分類 953
  • Cコード C0197

出版社内容情報

透明な知性と繊細な詩的感性によって20世紀前半のフランスを代表するヴァレリー.その唯一の小説集『ムッシュー・テスト』の主人公はヴァレリーの分身として異様な〈頭脳〉の劇を生きた.決定版の新訳!

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

新地学@児童書病発動中

107
テスト氏という名の輪郭のつかみづらい男性が登場する思弁的な小説。非常に難解。難しくて読んでいるときに眩暈がした。(苦笑)。それでも、思考の純度を高めて彼岸の世界に到達しようとする試みはスリリング。感傷や感情に溺れないで、どんなことでも分析的に考えようするのは西洋の哲学の伝統だが、案外仏教などの東洋哲学に通じるものがあると感じた。3番目のテスト氏の奥さんの手紙は親しみやすい。堀口大學の『月下の一群』に収められていたヴァレリーの詩の機知とユーモアを思い出した。2014/06/02

踊る猫

34
自分自身とはこの自分だけを見つめていてもわかるものではなく、他者との関係性の中、具体的には他者との語らいや交流によって見えてくるものとぼくは思う。その意味でぼくはテスト氏に共感できず、むしろどこかよそよそしささえ感じる。だが、その「よそよそしさ」が同時に生々しくアクチュアルなものであり無視できないのはそんな感じで「自己」としか呼びようのないものが自分の中にあるという感触(そしてそれはどれだけ明察・分析を極めてもついに見極められないという絶望)が確実にあるからだ。実に明晰な文体がそうした自意識の不幸を伝える2024/06/05

踊る猫

33
冷徹にして明晰な頭脳が描く、アフォリズムにも似た思索の産物。ヴァレリーの著作を読むのは実はこれが初めてで、だから知識なんてないまま読んだのだけれどその分析力の鋭さに舌を巻いてしまった。ただ、理解が覚束ないところも多々ある。人間は認識することによって自我を持つ。裏返せば自我は認識によってしか生み出し得ない。私たちは既知のものと対峙しており、従って世界ではなく壁と向かい合っているのだという一節が印象に残る。既知のもので出来上がった壁……それをラカンの思想と繋げるとまた頓珍漢に聞こえるだろうか? 難しい本である2019/05/15

zirou1984

30
オルター・エゴとはまた異なる、ヴァレリーの精神に対する考察の結晶体であるテスト氏を巡る短編/断片群。テスト氏の言動は奇しくも同年に生まれたプルーストの様に内省と観念に対する可能性を突き詰め、その可能性を提示しないという選択肢にこそ可能性を見い出した。それは時に「沈黙しなければならない」とも言われた場所だが、だからといってそれは思弁を止める事を意味しない。語られない場においてこそ思弁は紡がれ、精神は結晶化されるのだ。反転した可能性の存在に対する確信―それはどこか、倫理と呼ばれるものに似ている気がするのだ。2013/09/10

呼戯人

19
例えば、ムッシュー・テストは、苦しみについてこう言う。 苦しむというのは、何かあることに極度の注意力を払うことだと。これは苦しみについての最も正確な定義ではないだろうか。息も止まるほどの極度の注意から出て来るもの、予期不安や恐怖を伴う結果の意識。私たちの苦しみでさえ、テスト氏にかかると思考の材料にされてしまう。虚栄心や偉大さの観念や権力、富や名声、そういったものから最も遠い精神を形作るテスト氏。ヴァレリーの精神の危機から生まれたテスト氏は、私たちの精神の最も透徹した洞察に到達したものである。2019/01/14

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