出版社内容情報
フランスの穀倉ボースの平原を舞台に,零細な土地に執着する貧農の,素朴でしかも貪欲な動物的生態を描いた本書は,19世紀の農村の真実を描破した大作.親のへそくりを奪うために実父を殺す息子,妻の妹の相続した土地をわがものにしようと強姦する夫に協力しついに死にいたらしめる姉――恐るべき人間の獣性.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
22
フーアン爺さんには、40歳の長男イヤサント、通称イエス・キリストと、27歳の次男ビュトー(尻曲がり)、34歳の長女ファンニーがいる。キリストという綽名だからといって、良い意味ではない。イヤサントは、すさみきったキリストと呼ばれている。ファンニーは村の顔役に選ばれるようなしっかりした男性デロンムと結婚していた。まともなのは長女くらいだ。寄る年波に勝てなくなったと感じたフーアン爺さんは、財産を三人の子供に均等に分けようとする。公証人は、早く財産を分けてしまうことに危惧を抱いたものの結局は家族の情を信じる。2024/06/22
LUNE MER
13
ビュトーに引き摺られるようにしてリーズとフランソワーズの姉妹二人も狂気路線まっしぐら。トルストイの描く農民は「自分たちエリートが導いてやらねばならない蒙昧無知な連中だが、付き合ってみると結構いい奴ら」みたいな感じなのだが、ゾラの描く農民は、生理的欲求とその処理も含め、上から目線ではなく彼らと同じ目線からの姿が描かれているような印象。ムラの中での家族内の持分の醜い争いなど、グラント婆さんのような究極の老害まで絡んできて絶対にハッピーエンドから程遠い着地点へ向かっているという確信を抱く展開。2021/07/07
kitano
1
ビュトーのような男がなぜモテるのか、と謎だったが読んでいくうちに少しわかってきた このくらいガツガツした男じゃないと、この農村では使えないんだな 上品にやっていては飢え死にだわ まともなのはデロンム位で、親子であれ兄弟であれ、自分の欲望のためには容赦しない 広大なボース平野の四季折々の描写が圧巻で当時の農民の労働の日々がつぶさに描かれている。 人間の醜悪さが広大な大地のスケール感で中和されるのだろうか、読み進めていても暗澹たる気分にはならないのだった 2019/11/12