出版社内容情報
薄汚ないパリの裏街.単調な日々を送る無気力なテレーズだったが,彼女の身体を流れる淫奔な血はやがて激しくほとばしらずにはいない.夫の友人を見る彼女の目は暗く輝いた.ゾラはこの小説を「感覚と行為の記録」として「外科医が死体にほどこす解剖」のように書いたという.自然主義文学への第一歩をしるす記念すべき作品.
内容説明
肉欲のとりことなったローランとテレーズは秘かにテレーズの夫を殺して事故死にみせかけた。やがて二人は待ちのぞんだ結婚の日をむかえるが、その夜…。自然主義作家としての出発点となった作品。著者は「外科医は死体に対して解剖学上の作業を行なうが、私はこの作業を二つの生体に対して行なったにすぎない」と言っている。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
114
感情と行動の記述が益々解剖学的に傾倒。恐怖と狂気の迸ったヒステリー変遷は多血質と神経質の接触で社会性と獣性が裏返った結果であり、罪悪感や疑心の誇張は倫理的配慮というよりも解剖博士の没入と学究的昂奮の現れである。進行を停滞させない迫真の筆致に加えて、ローランやラカン夫人の視点でテレーズを観察することでサスペンスフルな要素を盛り込み、奥行きと推進力へ昇華させている。元来自由のために動員される欲はそれ自体が呪縛性を孕んでいる。この矛盾を激烈な形で現出する愛欲は社会・人間体質の研究の切り口として格好の題材だった。2023/04/28
セウテス
77
〔再読〕計画は成功し、二人の生活を手に入れたテレーズとローラン。しかし隠れ隠れ逢っていた頃の様な思いには、決して至る事は無かった。真相が明らかになるのではという怖れから、徐々に二人の精神が壊れていく様は此れで良いと思いつつ気分は悪い。愛欲に走った愚か者の末路を描きながらも、そこには原因となる愛情の問題を問うように感じる。むしろ真実を知りながら身体が動かないラカン夫人が、二人の世話に成らざるをえない絶望がきつい。衝撃の結末を見る事しか出来なかった夫人を思うと、静かだが頭にこびりつく様な恐怖を感じてしまう。 2018/08/29
星落秋風五丈原
28
【ガーディアン必読1000冊】さて、邪魔者カミーユを排除して、結婚までに工作を労したにも関わらず、ローランは「いまではわずらわしい女だが、この女をひとりじめにするために、どんなにいやな努力をしたことかと思うと、この女と結婚しなければ、人殺しも無意味でむごたらしいものになるのではないかという気がしてきた。」結婚が目的ではなく、殺人の元を取ろうとする行為にすり替わる。一方テレーズも、結婚さえすれば悪夢は見なくなると考える。つまり、最初の結婚の目的とは違ってきてしまった。にも拘わらず二人は既定路線を突っ走る。2024/03/24
うらなり
25
不本意な殺され方をすれば、このように残った犯罪者に恨みを残して復習が可能であるという実験小説のような感じをうけました。2022/08/16
ビイーン
23
下巻はホラー小説のようだ。人間の本能のままに行動したローランとテレーズの最期は、世にもおぞましい末路だった。そして病気を患い体が思うように動けなくなったラカン夫人が一部始終を見届けるが、その間の夫人の表情を想像すると鳥肌が立つ。2016/06/12
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