出版社内容情報
作者の出世作であり,代表作の一つに数えられる日記体の長篇小説.セーヌ河畔に愛書に囲まれてひっそりと暮す老学士院会員をめぐるエピソードが,静かなしみじみとした口調で語られる.古書にとりまかれて育ち,多くの書物から深い知識を得たのち,その空しさを知った懐疑派アナトール・フランス(一八四四―一九二四)の世界がここにある.
内容説明
作者の出世作であり、代表作の一つに数えられる日記体の長篇小説。セーヌ河畔に愛書に囲まれてひっそりと暮す老学士院会員をめぐるエピソードが、静かなしみじみとした口調で語りつづけられる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
seacalf
58
思いの外読みやすく、のほほんとさせてくれる。セーヌ川河畔の『本の都』に住まい、さぞ厭世的な性格かと思いきや、優しくウイットに富んだボナール氏の独白は読んでいて心地良い。50年勤めているテレーズとの丁々発止のやりとりが可笑しくて、ほのぼのした気持ちに拍車をかける。第一部は希少本の為に老体に鞭打ってパリからシチリアに出かける話に、屋根裏に住んでいる若いご婦人を助ける話が絡み、第二部は若き日に恋した人の孫娘ジャンヌが登場、不当な扱いを受けている彼女を救うべく奔走する話。どちらも最後は心が温かくなる洒落た結末。2020/11/14
syaori
50
主人公が「本の都」に住んでいて、口うるさい婆やと猫と一緒に暮している時点で好意を抱かずにはいられません。しかもボナール氏は修道院研究に打ち込み、貴重な写本のために老身(62歳)を押して単身イタリアの片田舎まで出かける書物を愛する人物なのですからなおさらです。偏屈で皮肉ですが本当は優しいボナール氏。彼の優しさがすみれの香りに包まれた素敵な結末につながる1部が特に好きでしたが、2部もしみじみとした味わいがありました。タイトルにもなっている彼のささやかな罪は、本を愛する人なら微笑ましく思って許してくれるはず…!2017/02/03
たーぼー
48
老学士院会員ボナールの静かな時を刻む生活(時にアグレッシブ)と、彼の住む『本の都』とやらを覗いてみたい。とりわけ二部におけるボナールの温もりある精神に本作の真骨頂をみる。死の間際に恋人の形見である金杯を海中に投じたトゥーレの王。彼になれなかったボナール。大事な蔵書を他人の娘の為に支度金に変えるものの、捨てきれぬ『書への憧れ』が若き娘への、恋の使者たる自らへの、冒涜の条件を満たすことに…。しかし、それは憎めない『罪』なのである。老境を迎えてなお、愛と知性の魔力にとりつかれ、翻弄され、戯れる人は素晴らしい。2017/03/03
tom
23
1975年、今から45年も昔に出版された本。図書館が受け入れて以来、一度も借りられることなく書庫で眠っていた模様。頁は黄ばみ、開くとカビの匂いも。本に埋もれて暮らしている老学者の日記の体裁で、周りで起きる出来事を書き連ねる内容。本を求めてシチリアまで旅をした顛末も楽しかったけれど、第二部の知人の娘をめぐる活躍もなかなか楽しい。この本がフランスで出版されたのは1881年(明治14年)著者37歳のとき。大昔にこんなユーモアあふれる本があったのかと、これも驚き。読んでいて楽しかった。教えてくれた読友さんに感謝。2020/12/11
歩月るな
18
アナトール・フランスをして文学の道へ歩ませしめた三十七歳時の初期作。時に老成しきったその筆致が自らの将来を予言するかのようであるのは小説家冥利ではないか。タイトルの《罪》は第一部、第二部へと折り重ねられた伏線、人格の上に作用する。「新しい生活にはいるためには、古い生活に対して死ななければならぬ」と思い至らしめるのは「ブロワ憲法だのバリューズだのシルドベールだの法規集だのはご存じのくせに、ナポレオン法典をご存じない」ボナール翁の境地。一喜一憂し読める日記文学ながら流石に学士院会員の手になるエクリチュールだ。2017/08/30