出版社内容情報
十九世紀も半ば,二月革命に沸く動乱のパリを舞台に多感な一青年の感情生活を描く.小説に描かれた最も美しい女性像の一人といわれるアルヌー夫人への主人公の思慕を縦糸とし,官能的な恋,打算的な恋,様々な人間像と事件を簡潔な筆で絡ませてゆく.ここには,歴史の流れと或る人間の精神の流れが,見事に融合させられている.
内容説明
アルヌー夫人への満たされぬ思慕をますますつのらせつつも、フレデリックは官能的なロザネットとの交渉を深めてゆく。そして2月革命。歴史は大きく揺れ動き、政治の渦は彼らをも巻きこむ。フローベール(1821‐80)の円熟した手腕の冴えが見事に発揮されたこの長篇は、写実主義が生んだ最も完璧な作品と称えられている。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
273
下巻ではフレデリックを取り巻く社会情勢が大きな変動を見せる。2月革命から6月事変へとフランスは激動の転換期を迎えるのだ。そうした中で、あくまでも恋に生きようとするフレデリック。そして、一方は政治に生きようとするデローリエ。さらに彼らの周辺にいた大勢の人たち。小説はあくまでもリアリスティックに社会と、その中に生きる個人とを描いていくが、最後にそれらのすべてが回想の中に置かれてみると、ロマネスクな諧調さえ帯びてくる。そして、およそ150年前のパリに生きたのが、自分自身であったかのような気さえしてくるのである。2015/12/25
かごむし
34
感想というような自分の感情を切り取ったようなものをどうやって書けばいいのだろう。この小説には、平凡な青年の人生そのものが、そして普遍的な青年の像そのものが、まるごと存在した。読み終わって、今、一つの人生が確かに終わった。そんな実感がある。「あたし、あなたを幸福にしてあげたかった」なんて、込み上げてくるものをどうしようもなかった。そんな生き方の先には幸福なんてないよって思ってしまうし、もっと賢いやり方は絶対あったはずだ。だけど、人生ってこんなもんだろうって受け入れて静かにたたずむ彼らに、感じるものがあった。2019/06/03
syaori
31
下巻では二月革命、六月蜂起、ナポレオン三世のクーデターと一気に世情が動きます。そのなかで友人たちが立場や野心によって様々に立ち位置を変える様子やパリ市内の描写で当時の混乱ぶりがよく分かります。結局この小説はフレデリックの挫折の物語ともいえると思うのですが、しかし最後のアルヌー夫人との対面と、続くデローリエとの会話でそれがすべて過去のなかに置かれたとき、当時の迷いも苦しみも悲しみも喜びさえも昇華され、あの夢を追っていた日々は何と輝いていたことでしょう。二人の最後の言葉に何ともいえない豊かな余韻が残りました。2016/10/07
壱萬弐仟縁
31
「私は金なんか眼中にありません。 この世にもっとも美しい、もっとも 優しく魅力あるもの、 人のかたちにあらわれた楽園、 そういういうものを心に描いて、 さてその理想を見つけ、 その美しいものの姿が他の すべてのものを隠してしまっている今」 云々(48頁)に目が留まった。 カネで解決できないことがある。 失った健康、いのちなど。 「ほかの人間は皆、富や名誉や 権力のためにあくせくしています。 私には地位もない。ただあなただけが 私の心を占めている」(50頁) などと言われてみたいものですのぅ。 2014/06/11
松本直哉
22
二月革命から六月の暴動、ルイ・ナポレオンのクーデタに至るパリの市街の混乱と無秩序、それに翻弄される人々の描写がリアル。共和制への幻滅と諦めの中で、フレデリック自身も恋に破れ、栄達も叶わず、苦く寂しい結末を迎えるが、最後の再会の場面でほんの少し救われた。肉体関係をもたなかった人を一番深く長く愛したというのが皮肉な感じがして、それだけにその愛は純粋化、理想化されるが、本当にそんな愛し方ができるのかなあ2015/01/05