出版社内容情報
この小説は16世紀中葉のフランスの社会状態と,激烈をきわめた旧教と新教との血みどろの争闘を描いている.「予を怨む者がなきように,ひとり残らず殺すべし」と,すべて新教徒の虐殺を命じたシャルル9世の時代の世相を描きあげたメリメ(1803‐1870)は,その冷淡とも見える突き放した筆致の奥に比類なき観察眼を秘めている.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
48
シャルル九世といえばサン・バルテルミー。果して本書もその凄惨な事件を目指して進みます。信仰の違いにより同胞が血を流し合う時代。物語はその”時代”に巻き込まれた兄弟を追っていくことに。信教の違いで家族や親友、恋人が対立する愚かしさが、メリメの簡潔な筆で凄みをもって描かれる聖バルテルミーの惨劇とそれに続くラ・ロシェルを巡る攻防で頂点に達するよう。そして、この大義を巡る戦いの虚しさを突きつけるヂョルヂュの存在は作者の考えを体現しているのだろうと感じました。またそれは今日でも十分な重みを持っているように思います。2019/07/08
松本直哉
27
決闘での負傷を癒すために白魔術を使う場面や「おまえは新教徒の匂いがするぞ」という台詞。宗教というより迷信あるいは生理的愛憎によって憎みあい殺しあうカトリックとユグノーの対立の中で、新教にとどまる弟と旧教に改宗した兄の対話から垣間見える対照的な生き方が興味深い。旧教の坊主も新教の牧師も信用できない、かといってどちらかの側につかないわけにはいかない…宗教一般に対する醒めた相対化の態度を終始貫く兄ジョルジュは、洗礼を受けなかったという著者自身の分身のように感じられた。セーヌ河が血に染まる虐殺の描写に息を呑む2018/01/20
おMP夫人
7
シャルル9世の生涯を描いた物語ではなく、その時代に翻弄された青年のお話。舞台となった16世紀当時のフランスを語る上で避けて通れないユグノーとカトリックの対立が物語の根底にあるのですが、無宗教の私からすれば異なる宗教ならまだしも、教派が違うだけで対立というのはアイドルグループのファン同士がどのメンバー推しかで揉めるのと大差ない気がして、それ故にサン・バルテミルの虐殺が一層愚かしく感じられます。やや物語の焦点がぼやけ気味の所はありますが、テーマは明確です。テンポが良いので旧字体に抵抗がなければ難なく読めます。2013/05/28
qoop
4
16世紀フランス、旧教と新教の争いが虐殺に転じ内乱へと続く様子を描いた佳品。当時の人情・風俗を写すことで豊かな色彩感が味わえるエンタメ歴史小説。一人の快男児を狂言回しとして迎え、表舞台の登場人物を要所で取り入れつつも事態の推移に混乱する貴族や軍隊、庶民に焦点を当てている。著者が序で云う通り〈時代によつて、同じ行爲に關しても、人の考へ方は甚だしく變遷してゐる〉が、本書で書かれた蛮行はある時代に閉じ込められたものだろうか。この混沌を宗教の問題/時代の所業と見るか人間の本性と見るかで感想は大きく異なるだろう。2015/10/07
讃壽鐵朗
3
宗教における狂信とはかくも激しく愚かなものかと実感2015/02/11