出版社内容情報
興の赴くまま人間について語り続けるモンテーニュ(一五三三‐九二)の筆致には,一種いい難いあじわいがあって,われわれの心を引きつける.プルタークに傾倒し『倫理論集』を愛読した彼.自領の館に引退し,古人のひそみに倣って悠々自適の生活を送った彼.読み進むにつれて,そういう彼の人柄が読者の眼前に彷彿するにちがいない.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
9
本書は「レーモン・スポンの弁護」という長大な章(第2巻12章)のみを収録する。ルネサンス以後理性重視と信仰重視の対立に対し、ズボンの理性による信仰の立証という立場を擁護する著者が、人間中心の理性主義の批判からさらに踏み込んで、信仰自体も外部に神を置く人間中心の態度であると告発する。その際著者は、不可知なものを知で覆わずにあえて判断停止(エポケー)する、セクストス・エンペイリコスが紹介したピュロンの古代懐疑主義の態度を取り上げる。本書はスボンの擁護を超え、不完全な知しか持たない人間がとるべき態度を指し示す。2022/05/06
うた
6
レーモン・スボンの論文への擁護から、定めなくこの世をさ迷い漂うしかない人間の寄る辺は神のみである、というのが結論が導かれているのだけれど、そこまでの過程に癖がある。人の不定さを突き詰めるあまり信仰をもたない民族の方が平静に近いと言ったり、信仰の良さをまとめるはずが古代の哲学から引用のほうがはるかに多かったりと、16世紀の著作として危ういところまで踏み込んでいる。2023/07/19
うた
6
モンテーニュは懐疑の森に踏み込み迷う。古代の哲学者の言葉をひきながら、その不定さに惑い、世界の多様さに目をくらませ、考えれば考えるほど、学べば学ぶほどに疑いに取り憑かれていく。次々と引用や事例をあげて道をつぶし、また論述を迷走させている。さらにモンテーニュ自身を埋れさせてしまっている。正直、読んで面白い章ではないけれど、懐疑を持ち漂いながら、モンテーニュが自身の声を得ていく過程ととらえると感慨深いものがある。2012/07/06
Fumoh
4
エセー3巻はモンテーニュの独特な人文主義(ヒューマニズム)思想が表れたものとなっています。で、これは現代日本で「ヒューマンもの」とか「ヒューマニズム」とか言われる人道主義とは、まったく文脈が異なるものでして(ただそれでもまあ多義的なものであります)、アリストテレス系列のスコラ学に対して、人間中心に諸学(宗教・詩歌を含む)を問い直すというルネサンス的思想です。この「人間中心」というのは、ちょっと表面に出てこないところではありますが、この時は宗教改革真っ只中で、また同時に古来のスコラ学と、新来の合理的科学思想2025/01/30
Kwabe
3
この巻には「人間がいかに大したことのないものか」という主張がある。いかに懐疑を重ねても、神の存在を否定することはできず、むしろ神を前提としないことには全てが始まらないのだ。少なくともモンテーニュにしてみればそうなのである2020/04/25