出版社内容情報
廃墟と化した戦後の町で,現代の死神が作家の私に語ったのは…….ユニークな設定の表題作以下,第二次大戦下の言語に絶する体験を,作者は寓話・神話・SF.ドキュメントなど様々な文学的手法をかり,十一篇の物語群としてここに作品化した.戦後西ドイツに興った新しい文学の旗手ノサック(一九〇一―七七)の出世作.
内容説明
廃墟と化した戦後の町で、現代の死神が作家の“私”に語ったのは…。ユニークな設定の表題作以下、第2次大戦下の言語に絶する体験を、作者は寓話・神話・SF・ドキュメントなど様々な文学的手法をかり、11篇の物語群としてここに作品化した。戦後西ドイツに興った新しい文学の旗手ノサックの出世作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
20
戦争は人間の倫理や道徳を剥ぎ取り、本来の自己のみの生存本能がむき出しにする。それをまざまざと見せつけられた人間は人間自身に絶望する。希望も結局は絶望を深める道具に成り下がる。そこには底無しの虚無感と諦めがある。皮肉なことにも宗教の力でさえ実現できない人々の平等を知らしめるのも戦争だという虚しいのに重い事実をSF、ギリシャ神話などに仮託して抉り出しています。生きていてもその事実をじわじわと真綿で絞め殺すように知るのに戦争や災害で目の前にいきなり、その事実を突き付けられることも酷いと思わずにはいられません。2011/10/06
ふくろう
12
ゼーバルトは『空襲と文学』で、ハンブルグの空襲を正面から取り上げた数少ない作品として「滅亡」を挙げている。ゼーバルトが指摘した「集団的記憶喪失」について、ノサックはこう述べる。「この報告を済ませておかないとわたしの口は永遠に閉ざされたままになると感じられる。…当時起こったことを現実のものとして理解し記憶に組み入れることは、通常の理性には絶対不可能となるであろうから、その体験が悪夢のようになってだんだんにぼやけてしまうのではないかとおそれる」事実、多くの記憶はノサックがおそれたとおりになったのだった。2013/01/20
うえ
5
「何度も、自分で納得するために、自分に向かって言ったものだ。いいさ、本なしでもやって行けるはずだ。ひょっとしたらわれわれは本にたよりすぎていたんだ。なにが本当にわれわれのものであるか、どれだけがわれわれの知識の現在高なのか、こうなってみてはじめてわかるというものだ。結局のところ人々は、まだ読書経験のない若い人たちの手にまた書物をあたえたがっている。それも若い人たちに気晴らしをさせるためではなく…いやらしい人物にもならずに切り抜けた人間もちゃんといたのだということを教えようとするためなのだ」2016/11/18
なべさん
3
戦後活躍したドイツの作家、ノサックにより第二次大戦中から戦後にかけて書かれた幻想的な短編集。表題作のように死神が出てきたり、異星人による人間の観察報告の体裁をとった話や、オデュッセウスの息子テレマコスを語り手にした神話の語り直し、或はハンブルク大空襲のドキュメントなど、様々な文学手法が駆使されている。これらアンリアルな手法も含めて描かれるのは、第二次大戦という人間にとって究極的にリアルな地獄の様相である。極限状態に立ち向かうための想像力がどの短編にも満ちているが、如何せん作者の知名度が低いのが残念だ。2020/08/24
rinakko
3
設定のユニークな表題作の他、不可解な邂逅が残照のように後を引く「ドロテーア」や、神話を題材にした「カサンドラ」など…興味深く読んだ。ハンブルクでの空襲の体験を描いた「滅亡」は、峻烈さを増していく筆致にただただ圧倒される。2012/02/08
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