出版社内容情報
迷路のような巣穴を掘りつづけ,なお不安に苛まれる大モグラ.学会へやってきて,自分の来し方を報告する猿….死の直前の作「歌姫ヨゼフィーネ」まで,カフカ(1883-1924)は憑かれたように奇妙な動物たちの話を書きつづけた.多かれ少なかれ,作者にとっての分身の役割を担っていたにちがいない,哀しく愛しいかれら.
内容説明
「カフカ伝説」といったものがある。世の名声を願わず、常に謙虚で、死が近づいたとき友人に作品一切の焼却を依頼したカフカ―。だが、くわしく生涯をみていくと、べつの肖像が浮かんでくる。一見、謙虚な人物とつかずはなれず、いずれ自分の時代がくると、固く心に期していたもの書きであって、いわば野心家カフカである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
130
フランツ・カフカの作品集で30の作品が収められています。ショートショートのような作品から結構長い「巣穴」、他のアンソロジーでも読んだことがある「断食芸人」などがあったりします。他の短編集で読んだものよりも説明的な作品もあり比較的読みやすい気がしました(巣穴は除きますが)。やはり一番印象に残るのは「断食芸人」でした。またカフカが描いた絵がいくつかあり印象に残りました。池内紀さんの解説が参考になりました。2022/10/22
優希
91
野心家カフカと謳っていますが、芸術家としての立場を考えると、誰でも抱きそうな感情に思えます。それは、常に謙虚で、死後作品を焼却するよう願ったからこそではないでしょうか。数々の寓話の中には、自分の作品が思うように書けなかったような雰囲気を漂わせているものもありました。何処かで自分の時代が来ると見つつも、作品を残すことを望まなかったのもうなずけます。2018/01/27
藤月はな(灯れ松明の火)
58
人生を過ごし、若き日の理想や夢も遠くなり、ある程度の受容という名の怠惰と小狡さを得ても無意味に過ごす事に幾ばくかの疑問はある中、カフカの作品を読むと刺さる事がある。今回は不自由と責任を取らない気楽さは表裏一体の「ジャッカルとアラビア人」、自分に合わないだろうと思っていた事の意外性を描く「新しい弁護士」が刺さった。各短編にいしいひさいち氏による『現在思想の遭難者たち』でのカフカ章を思い出しながら読了。そして翻訳してくださった池内紀氏による解説が面白いので是非、ご一読を。従来のカフカ像が引っ繰り返りますよ!2024/09/21
ハイカラ
49
己の創作活動に対する自信と不安の現れのような話が多かったように思う。評価も称賛も必要とせずに小説を書くような人間がいるわけがない。カフカは自分の理想とする作品を書き求めながら、しかし日の目を見れず、いつか勝ち得る筈の成功をひたすらに夢見ていたのだろうか。面白い掌編短編だった。2016/04/08
ちくわ
47
【断食芸人】まず題名を見て、江頭2:50のような身体を張るガリガリ芸人が登場し、カフカお得意の不条理が大爆発か?と妄想しつつ読み始める。 感想…トレードオフや二律背反に関する寓話? 実際問題、人生は相容れない二つの狭間で苦しむ事も多い…理想と現実、プライドと迎合、個人と社会、カレーかラーメンか(笑)。断食芸人も終始悩んでいた…特に生活の為に日々嫌な仕事をこなしている社会人は共感も多かろう。ところが彼の死に際の告白とラストの豹の躍動で卒倒…な、なんじゃそりゃ? 流石カフカだ…こりゃ寓話じゃなくて悲喜劇だろ!2024/11/27