出版社内容情報
人生の波に呑まれ,世俗に馴染み,おのれの法則を見失ってゆく大人たちにも突然存在の核心をゆすぶるような震撼がやってくる.こういった時に,この生涯をひとつの作品として生きた詩人は,ふたたびみずからの存在の序章をふり返る.あらゆる瞬間を全的に生き,無上の真摯と信頼をもって生に直面したあの幼い日の自分を探し求める.
内容説明
人生の波にのまれ、世俗になずみ、自分自身から遠ざかってしまうとき、人はふたたび自分の存在の序章を振り返る。あらゆる瞬間を全的に生き、無上の信頼をもって生に直面した幼年時代を。カロッサ(1878‐1956)は、自分の過去の経験をたどり、その意味を繰り返し問い直しながら、倦むことなく自伝的作品を書き続けた。
目次
最初の悦び
鱒
広場
花園
掘出し物
学校と生徒
魔術師
懴悔
エヴァ
競走
キリスト誕生の図
復讐
光明施与
病気
剣
供物を献げて
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
S.Mori
18
ヘルマン・ヘッセやトーマス・マンと並び称されるドイツの文豪ハンス・カロッサの子供の頃のことを描いた小説です。繊細で美しい文章が印象的(訳文がちょっと生硬なのが残念です)。ヘッセに似ていますが、ヘッセよりも死が身近なものとして書かれています。父親が医者だったからでしょう。魔術師と信じていたおじさんが死ぬ場面で、ハンス少年は初めて現実の世界の不条理を経験します。終盤で友達が少しずつ成長して、自分と違う道を歩み始める場面には切なさが漂っていて、胸に沁みました。自分の子供時代を甦らせてくれる素晴らしい小説です。2020/01/24
ちゅん
7
ありもしない魔術を多くの人に披露するカロッサとそれをフォローするエヴァの話がほっこりしました。2017/09/12
スエ
6
自分の幼年時代を思いながら、いつもより少しゆっくりめに読了。根拠もないのに魔術が使えるものだと人前で披露しようとしたり、剣をふりまわして母親を傷つけてしまったり…。あどけない失敗のたびに、周囲の大人や友人たちが彼を導いていく。ライジンガーとの和解のシーンは少しほろっときました。宝物を愛おしむように綴られた作品。おすすめです。2016/07/10
ラウリスタ~
5
順番は前後してしまったが、カロッサの自伝三部作?の一つ目を読んだ。大学生時代と比べて、幼年時代は面白い。これはこの本自体の面白さというより、読者の好みかも。後書きで、『美しき惑いの年』がカロッサの小説で一番面白いって言ってたけど、まじですか。あれが一番だったら、そうとう面白くない小説ばっかり書いているんだろう。もっとも、この『幼年時代』はまだ、読める。でも、ヴァレスの『子ども』とかと比較すると面白さがまったくない。たんたんと、さらさらと、流れる清水。それが、ナチス期の暗い世で書かれたことを鑑みると2012/09/19
月音
3
人は誰もが己の過去を振り返る時があるが、著者のように真摯に向き合うことができるだろうか。本書は人生の曙というにふさわしい、ほのかな光に包まれている。不安や怖れに傷つくことなく、純粋な喜びと期待に満たされていた日々。子供らしい失態は寛恕され、欠点は注意深く取り除かれ、罪は汚濁に染まらぬ無邪気な心によってあがなわれていた。彼を姉のように慈しんだ少女エヴァは印象深く、その名も暗示的だ。ラスト近く、彼は彼女のおもちゃの指輪を捨てる。無言の別れを告げることで、少年は幼年時代というエデンの園を自ら捨て去ったのだ。2023/03/28