出版社内容情報
「幼年時代」と「美しき惑いの年」の間にはさまる9年間,ギムナジウム時代の記憶.日本の学制でいえば,小学校の後半から高等学校を終えるまでの時期である.両親の家から古都ランツフートの由緒ある学校に移し植えられたまだ幼い魂が,9年の在学期間にたどってゆく幾変転.それは若いいのちの生長,展開,運動の絵図である.
内容説明
『幼年時代』に続くカロッサの自伝的小説。9歳頃から18歳頃までのギムナージウム時代が描かれる。主人公は親元を離れ、学校生活をはじめる。若い魂をかすめる一抹のかげり、思いがけずその上に投じられる一瞬の陽光。そうした微妙な明暗の交錯するなか、不安を隠し、戦慄を抑えながら驚きの目を見張る少年がたどる幾変転。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
20
「おぼろな努力」で、優秀な青年が、貧富を問わずひそかにこいねがうことは、魔神的な己れの運命か、己の外にあるなにか力強いものへの協力である(228頁)。人類のいかなる純粋な幸福も、この世界からは望み得ない。真に自由な精神は、この世界では息づくことができない。せいぜい、聖者にでもなるぐらいが関の山(233頁)。 2015/11/13
ラウリスタ~
5
これはなかなかに面白い。カロッサの自伝的小説三部作のなかでは一番面白い。なんといっても9歳から18歳を描くのだから面白くないほうがおかしい。思うに車輪の下ともっとも近い作品にあたるかも。しかし、それは形状のみの類似で内実はまったく違う。カロッサの主人公は結局のところ社会的に成功するようになっている。完全なるエリートコースを道草を食いながらも進む。そこに彼の存在を根底から揺るがすようなものはなにもないし、大事件も時の経過によって容易く葬られる。とはいえ、なんらかの面白さがカロッサにあることは納得できた。2012/09/21
camus
3
戒律への反抗や虚言癖等を通じて学校の問題児として教師の不評を買いながらも、様々な人と詩に触れ徐々に心の平穏を獲得していくギムナジウム時代の9年間の思い出話。語り口が淡々としていて、心に燻る若者の激情というよりは、世間のしきたりに従わされる困惑を描いたものとなっている。こうした丹念な書き方から、どこまでが史実でどこからが脚色かなんとも分からないふわふわした感覚を味わえる。2015/11/19
月音
1
「幼年時代」の続篇にあたり、少年カロッサのギムナージウム時代を書く。両親とエヴァに別れを告げ、学寮に入った主人公。相変わらずの軽はずみな言動が危なっかしく、「何でこう事をややこしくするかな」と、じれったくもなる。だが、ふざけあい、議論をし、適切な助言を与えてくれる友と出逢えたことは、夢見がちで周囲の影響を受けやすい彼にとって幸運だった。詩と音楽の美しさに目覚めたことは当然のこととして、同時期に医学へも関心を示しているのは面白い。詩人・作家であり、医師でもあった彼の土台がここで出来上がったわけだが、⇒続2023/04/12
中村禎史
1
H.カロッサ(1878-1956)ギムナジウム(中学~高校)時代の自伝小説。19世紀末のドイツ青年の青春。友情、教師の態度、歳離れて生まれた妹のこと、医師への目覚め、女性への目覚めなど、共感できる話も多かった。この人はカトリックだが、当時はプロテスタントの方が政治家でも軍人でも学者でも偉くなっている人が多い、と言う劣等感的なものを持っていたと言うのも興味深い。2020/07/03