出版社内容情報
ひとりの家政婦とともに暮している老年の主人公が,ある日家政婦に自らの青春時代の5つの恋を物語り,昔の恋人たちをいちどきに館に招待しようと計画する.――ケラーが人間としても作家としてももっとも円熟した時代の作品.全体が50歳を越えた作者の冷静な観照に包まれ,美しい節度ある人間性と淋しさをたたえた芸術品となっている.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
H2A
6
独り身の代官ランドルトが、かつて出会った恋人たちを自宅に招いてある提案をもちかけるという話。そこにカワラヒワ、道化師、つぐみ、うぐいす、大尉、と代官がひそかに名付けた女性たちとの出会いと別れが連作短編のように織り込まれる。短いがそれぞれ揮っていて読後もじんわりとするケラーはリアリストでありながらユーモアも忘れない。健全で強い。「その時代のどんな悲惨と圧迫のなかにあっても彼の芸術眼は、熱病の夢のようにめまぐるしく変わる千変万化の光景の上にはっきりと見開かれていた」。これは逸品です。2013/07/10