内容説明
ブリギッタは、醜く生まれ、心が頑なになってしまったが…。愛のすれ違いと交わりを描いて胸打つ「ブリギッタ」。少年少女にそそがれる大人の愛情と、それによって育まれる心を描く「荒野の村」「森の泉」。シュティフター(一八〇五‐一八六八)の愛をめぐる物語三篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
26
心が洗われるような短編集です。美しく厳しい自然によりそって暮らし、善良な、もしくは善良であろうとする人たちが描かれています。心情描写や劇的な展開は抑えられているのですが、そのためにこの善良な人々の生活はとても胸に迫ってきました。「物悲しいほど美しい」荒野で暮らす少年の成長を追う『荒野の生活』、この本のなかで一番劇的な、男女の愛を描いた『ブリギッタ』、素朴で野生的な少女と都会から来た老人と孫たちとの交流を描く『森の泉』、どれも繊細で清らかな、「よりよき人」を志向する人々が織り成す素敵な物語でした。2016/05/12
みねたか
25
美しい3つの短編。「荒野の村」では、肉親の愛情と野に住む生き物との交歓を通じて少年の心が育まれる過程が生き生きと描かれる。「ブリギッタ」では、秘密めきながらも静かに進んでいた物語が、途中から激しく動き始め、少女の悲劇、戸惑い、喜びと何層もの世界を描き出す。「森の泉」は、老人の優しさと情愛により、頑なに扉を閉ざしていた少女の無垢な魂が現れていく。どの話も、ボヘミアの美しい自然の中で、愛すること、愛されることの喜びが歌い上げられ、心洗われる。ああ、素晴らしい。2017/02/25
めんま
22
3作収録されており、どれも複雑な心理の書き込みはなく、素朴な人物の素朴な行動と自然の描写で進んでいく。表題作はいずれも醜かったり、粗野な女性との間の愛をもって結末としており、いささか予定調和的で物足りない。しかし、落ち着いた自然描写の快さは、それを補って余りある。2022/02/18
seacalf
18
擦れっ枯らしでつむじ曲がりな性格には、少々清廉過ぎるお話かなと思いきや、さにあらず。一種のユートピアとも言うべき郷土を描いた「荒野の村」は美しくも、なだらかに収束するので物足りなさを感じるが、続く「ブリギッタ」「森の泉」が非常に面白い。話の展開でも読ませてくれる。異形なるものへの寛容さも二作品には描かれていて、大変気持ちが良い。それに反した現代の例のあの人をちらりと思い出してしまう。シュティフターの作品に流れるこの透き通った感覚、クリスマスの時期に感じる空気に似ている。ぜひその頃に他の作品も読んでみたい。2017/02/02
H2A
15
旅先で会った「少佐」を頼りその領地に身を寄せる主人公。ブリギッタという不器量な男勝りの初老の隣人女性。その息子で「少佐」が溺愛するグスタフ(晩夏にも同じ名前の少年が登場)。ブリギッタという存在がうまく定着していて、『晩夏』への布石としても重要。『森の泉』『荒野の村』もそれぞれ個性はあれど、いい意味で同工異曲。シュティフターの森にいつまでも彷徨っていたい。2014/06/08