出版社内容情報
馬商人ミヒャエル・コールハースは領主のために何の理由もなく馬2頭を横領される．彼の訴えは却下され，その上彼の妻は一兵卒に犯されて死ぬ．復讐の鬼と化した彼は，領主を庇護するものは，人ならば殺し町ならば焼く．彼がライプツィヒをまさに焼かんとした時仲裁に入った男のお蔭で馬の代価はとれたが，彼は死刑に処せられる．
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
22
感傷とはいっさい無縁の簡潔で雄勁なクライストの文体が、ミヒャエル・コールハースという一介の博労の、低い身分にもかかわらず、不正義に抗うためには命をかけることも厭わない高潔で非妥協的な精神に似合っていた。発端は些細な事件で、何の根拠もない通行税の課税のために、大切に育ててきた馬を虐待されたことへの抗議がやがて当局の役人への暴行、街の放火にまで至るが、彼自身は終始一貫して冷静で論理的で、上機嫌でさえあり、その沈着は死刑台の上に登っても失われることがない。動機善ならば弑逆も可との信念の貫徹に心打たれる。2025/09/27
壱萬参仟縁
22
表紙見返しによると、 誠実な馬商人が正義感から 復讐の鬼と化して大盗賊 になる。ドイツ短篇小説の 最高傑作。 コールハースは、 法律の保護を拒絶された者が 国家から逐われると恐れた。 平和な家業が栄えるにはこの保護 が必要。 家族や財産と社会に逃れて来た。 法律を拒絶する者は荒野の野獣 の中に逐ひ出す（４５頁）。 マイセンへ落ちのびた、 公子の家政婦なる痛風病みの 老婆も出てくる（５８頁）。 2014/07/19
K
7
＠ドイツ文学読書会 僕が読んだのは全集に収録されているものであるから、本書とは正確には異なるが、内容に対する感想を残すために登録しておく。正義感の強いある馬商人による復讐譚と言えるだろう。クライストは、プロイセン法に詳しいらしく、本編でも法に関する記述が多い。法によって正当に訴えたのだが、認められないコールワースは、様々な手を使い、味方をつけ、最終的には貴族に仕返しを達成する。個人的には、ジプシー老婆の活躍が面白いと思ったのだが、彼女のキャラクターとして、分析のし甲斐がありそうであった。2022/11/05
ハルバル
6
誠実な馬商人が貴族の無法と妻の死によって、激烈なテロリストに変貌する。仇である貴族の城を襲うまでは分かるが、いくらなんでも敵を匿った都市を焼き討ちにするのはやりすぎではないか…と思わざるをえないほど、正義と公正を求めてどこまでも一途に戦い続けるコールハース。自分でもやり過ぎたと理性では思いつつ、失ったものの大きさの前に立ち止まることができない。その頑固一徹さにナポレオンに抗して決起を求めた作者の姿が重なって見える。かのカフカが愛読し、「審判」にも影響を与えたらしい。しかし旧カナ使いはひどく読みづらかった。2017/03/19
風に吹かれて
4
大江健三郎の名作「臈たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ」、文庫では改題「美しいアナベル・リィ」でアナベル・リィの化身ともいうべき女優サクラさんを主人公に映画化が構想された作品であることに興味を持ち、360円で出された、今では古本でしか手に入らないこの本を1,000円（1994年発行のもの）で購入。1941年発行の版をそのまま使っているためか、活字が小さくて読むのが大変でした。でも、旧字体が味わい深かった。どこまでも正義を貫くミヒャエル。反権力の物語があの戦争の開戦の年に出版されていたことに驚きです。2015/06/26
