出版社内容情報
17世紀のドイツは,新しい世界創造への苦悶の時代,二元的な生活感情に悩む時代であった.グリンメルスハウゼン(1622頃‐1676)はその知的苦悩と矛盾をこの作品に純粋かつ強烈に描いた.主人公ジムプリチウス生成の歴史は個人のものではなく人間一般にまで象徴化されている.ゲーテの「ヴィルヘルム・マイステル」の先駆ともみなされる作品.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
7
滑稽・風刺小説はラテン語圏の教会に対し、俗語表現によって批判の力とするが、その力を表現から物語内容に移した悪漢小説は、教会が描く天界とは別の天上を求めて彷徨う主人公と出来事との関係に求める。一方、乞食となった友人に出会う主人公がヨーロッパを出てロシアまで彷徨した果てに、自分の名付け親と同じ隠者になるために無人島へ向かうとき、天上を求めてきた彼の巡礼の旅は、地上にその安息の地を見出す遍歴の旅へと変容する。ネットワークを作ってきた諸関係が背景に追いやられ、直線的ストーリーが前景化すれば、本書は教養小説となる。2019/10/24
壱萬参仟縁
5
「偉くなり有力になる人間に対しては富のほうから媚を示すのが筋である」(26ページ)。結果を出せばカネ(数字)は後からついてくるというやつだな。「貧しい者が借金を返すために血の出るような無理をし食うものも食わずにいなくてはならないとなると、富む者は言われなくても貸金を棒引きにしてしまいます」(84ページ)。地獄の奨学金返済を思った次第。第5巻第24章は的を射た人生訓がある。122ページ~の箇所で、「さらば、人の世よ!」で呼びかけられる段落。125ページの一段は、ホントにいろんな人間がこの世にはいるなと感心。2013/02/08
kero385
2
戦後ドイツの傑作小説「ブリキの太鼓」の作者ギュンター・グラスに「テルクテの出会い」という小説がある。17世紀の前半を覆う悲惨な三十年戦争の末期、ドイツの文人達がテルクテという町に集まって、ドイツの行末を憂うる会合を開くという話で、当時実在した文人達が登場する。実は、この小説、二次大戦敗戦後の1947年にハンス・ヴェルナー・リヒターという作家を中心に集まったドイツの作家・詩人のグループで、グラス自身も世話になったGruppe47とその参加者をモデルにしている。過去と現在の大戦という悲惨な状況の中、2024/03/25
春色
1
ジムプリチウス一代記、上昇編。ヘルツブルーデルとの再会によってマトモな生活に戻りつつあったジムプリチウスは、彼の死と育ての親との再会によって完全に爛れた生活から足を洗う。湖の底世界にお呼ばれしたり、戦争の余波を食らってロシアまで遙々行く羽目になったりしつつ、とある本に感銘を受けたジムプリチウスは己の人生を神の御手に委ねようと決心し、亡き実父と同じ隠者となる。以下、彼が南の島に安住の地を見つけるまで。/旧字体なのが地味に面倒だが、これが意外と面白い。ジムプリチウスの巧みな語りと奇想天外な展開がキモか。2010/07/11
isbm
0
★★★2022/09/14