出版社内容情報
17世紀のドイツは,新しい世界創造への苦悶の時代,二元的な生活感情に悩む時代であった.グリンメルスハウゼン(1622頃‐1676)はその知的苦悩と矛盾をこの作品に純粋かつ強烈に描いた.主人公ジムプリチウス生成の歴史は個人のものではなく人間一般にまで象徴化されている.ゲーテの「ヴィルヘルム・マイステル」の先駆ともみなされる作品.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
7
地上に真の生活はないのだから生きることは巡礼である。ドイツ観念論を思わせる主人公の考えは、ヨーロッパ中を巻き込んだ30年戦争の中で形成された。悪事を繰り返す民衆出身の主人公が活躍するサタイア(悪漢小説)は、カトリック圏では世界の腐敗を背景に憐みの対象として読まれたが、プロテスタント優位の地で書かれた本書は、様々な出来事に出会い悪事をしつつも経験を積んでいく主人公が描かれる。それゆえ後の教養小説の祖とされる本書だが、主人公Simplicissimus(最も単純な男)にとって、成就すべき目標は天上にこそある。2019/10/23
壱萬参仟縁
4
17世紀ドイツ。「地上の生活は人間の真正な真実の生活を脅やかし愚弄する悪夢であって、この現世の生活の空しさとはかなさを認識し超越的世界に飛翔することが人間に負わされている仕事であって、地上の生活はその認識に到達する道程としてのみ意義を持ち、救済はこの世の生活に於て用意されるという考えは、17世紀の人間に共通した考方であった」(10ページ)。他の章についてはコメントできないが、ここは重要だと思える。日本は徳川時代なので、こうした理想主義的な発想はあったか。思想の鎖国ということはなかったかどうかと。飛翔の妙。2013/02/08
木枯竹斎
2
かってアマゾンで記載したのでそれはメインの感想として これを読む前にシラーの三十年戦争史を読むとより一層この物語のリアリティが増すと思います。 その逆でもシラーのそれがよく解ります。 時代風俗を写しているという意味では大変興味深く、この後シュッツの音楽を聞くとその底辺に流れる悲しみというかいうか暗さも少しわかったような気もしました。 ドイツ人でも読んでる方が少ない本をこうやって気軽に読めるのはありがたいことです。 2014/07/14
春色
1
三十年戦争末期のドイツを舞台に、幼い頃に家族と離れ「ななしの権兵衛」になった主人公ジムプリチウス(=阿呆者、の意)の一代記。森に棲まう隠者に拾われ真摯なるキリスト教徒になったはずのジムプリチウスは兵隊に浚われて道化者となり、ついには狩人との二つ名を持つ有名な兵隊となる。ジムプリチウスの人生における上向きシーズン。2010/06/25