出版社内容情報
ヘンリー・ジェイムズやキプリングが絶賛.アメリカ文学史上に名をのこす女性作家の傑作,初の邦訳!
内容説明
作者の故郷メイン州の静かな町を舞台に、人びとのささやかな日常と美しい自然を繊細な陰影をもって描いた。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
128
岩波文庫から出版されたこの作家の本邦初の訳だそうです。素晴らしい本でした。というか私もこのような本が自分の年齢にふさわしくなってきたということなのでしょう。(時たまストレス発散に刑事ものやコミックも読みますが)読んでいて「ウォルデン」(森の生活)のイメージがちらつきます。表題作が中篇ということで約半分を占めています。その他短編が5編どれも好みです。表題作の短編がいくつか連作のような形であるようです。そちらも読みたい気がします。というか原文を手に取りたい気持ちにさせてくれました。2019/12/24
syaori
69
表題作と短編五編を収録。表題作は、作家の「わたし」が海沿いの町に滞在したひと夏を描く中篇で、彼女が出会う様々な人生模様が胸を打ちますが、それを受け入れて生きる人々のしなやかさや真摯さが鼻に抜けるような香気となって、爽やかで深い味わいを残します。昔日の叶わなかった恋を決然と抱えるミセス・トッド、恋人の裏切りで無人島に隠遁したジョアンナ、死んだ妻を偲びその生前のように家を保つティリー老人など、皆それぞれに人生の幸福と苦しさとそれにより磨かれた美しさを湛えていて、胸の奥にそっとしまっておきたいような作品でした。2021/11/25
キムチ
65
本邦初訳とあり、帯には華麗な褒め言葉!読み終え 私が粗忽なのか?大袈裟過ぎの気がした。好きな人は好き、退屈で終える人がいても可笑しくない。クリスティのマープル夫人を思い出した。とんがりモミの木の舞台も架空の町。筆者の分身のような中年の婦人が67歳の女性の家へひと夏下宿しに訪れる。ノベルの様にスリリングな出来事がある訳じゃなし、ロマンスもなし。善意に満ちた人々の間で交わす言葉は優しく、薬草の話も花々や自然の観察も150年前の時間とは思えないほど手触りを感じさせる。短編が4編・・「ベッティー」「シンシ―」2020/10/23
penguin-blue
43
表題作は海辺の小さな町で夏をすごすことを選んだわたしの、下宿先のミセス・トッドとその家族や町の人々との交流と描いたもの。木々の深い緑や、凪いだ海辺を吹き渡る風の心地よさまでが感じられるようで実際にここで夏を過ごしてみたくなる。他の作品も含め、出てくる人が善人ばかりで、でも中年以上の人々ばかりなのは作者の年代か、それとも19世紀後半当時でも、若い人は都会に出ていく感じだったのか。刺激や衝撃はないが、読後感が心地よい、人々の温かさに心温かくなる一作。2020/05/31
ワッピー
41
メイン州の港町に滞在した女性作家が次第に町の生活に溶け込み、ついには地元名士の集いに招かれるひと夏の体験を描く表題作、都会から来た青年への憧れと決断「シラサギ」、死者を偲ぶ一夜「ミス・テンピーの通夜」、救貧院に暮らす老女の思いがけない幸運「ベッツィーの失踪」、独居する高齢のおばを心配する姪「シンシーおばさん」、終生続く愛情「マーサの大事な人」を収録。いずれも豊かな自然を背景に女性視点の緻密な心理描写で19世紀アメリカ東海岸の静謐な生活を描く名作です。こんなすごい作家を今まで知らずにいたことに反省しきり。2020/03/01