内容説明
とりあえず、結婚だ。―宗教者をめざして勉強する青年は決断した。しかし現れた仲介業者がどうも怪しい。“樽いっぱい花嫁候補のカードだよ”とうそぶくのだが…。ニューヨークのユダヤ人社会で、現実と神秘の交錯する表題作ほか、現代のおとぎ話十三篇。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
キムチ
63
マラマッド作品の特性からくる奴には中毒性があるみたい。「喋る馬」で柴田氏がリストしてた…貧乏エレジー/訥弁English/お人好し的義人の存在〜今回もしてやられた感。イディッシュ文化にカチリと裏付けられた幻想テイストが面白すぎ。でも描かれるのは地を這わんばかりの明日にでも昇天?の貧困、餓死寸前、孤独、。解説で訳者曰く 彼の作品は「自分の心を覆ってるモノを剥がし ほんわかしたモノに」手を伸ばしてくる…そして己の背後に隠れた薄暗い路地に連れてってくれると!好きなのは「天使レヴィン」「魔法の樽」黒い翼の天使は→2025/02/13
藤月はな(灯れ松明の火)
41
ニューヨークのユダヤ人として生まれた作者による、人生のほろ苦く、温かい寓話。浮かび上がるのは、収容所やイスラエルへの強制送還などの仄暗さが呪詛のように付き纏う。人口比によるアメリカ社会での立場の逆転を描いた『天使レヴィン』、とある人の言葉から意識し、周囲を気にせず、読書にのめり込む姿を描いた『ある夏の読書』、とある過去を刻印する事実による別離の『湖の令嬢』、忌々しい押し売りと思いきや解脱を果たした途端に立場が逆転した『最後のモヒカン族』が印象的。『どうか憐みを』はどちらの立場に置いても解釈が異なりそう。2013/12/07
星落秋風五丈原
38
「魔法の樽」の主人公はラビになるには既婚者であった方がいいという理由で相手を探すフィンクル。誰だって幸せになりたい。少なくともいい思いはしたい。ところが人が欲望を抱くと、欲望を見抜いた人がすり寄ってきて、「望みを叶えます」と言葉巧みに説き伏せ、あなたのなけなしの金を奪い取ろうとする。振り払おうとしながら一粒の欲が邪魔をする。騙される側にも隙がある。飛び切りの大金持ちではなく、少しだけ裕福な者を貧しい者が追いかけて金をかすめ取ろうとする構図がパターンを変えてしつこいほど登場する短編集。 2019/05/14
こばまり
37
しみったれていて読んでいると気が滅入る。ついでに不穏なる幻想の世界にも連れて行かれる。でもこの陰々滅々、決して嫌いではないです。むしろ好き。書店でふと手に取るまで、20世紀アメリカのこの偉大なユダヤ人作家について何も知りませんでした。反省。2014/10/14
nobi
34
第2次世界大戦の傷跡が人々の生活と記憶に根強く残っていて、ユダヤ人としての境遇が輪をかけている。うらぶれていてお金に纏わる話が多い。他人に構う余裕がない笑いに転化する余裕もない暮らし振りと憐憫の情とが拮抗して物語が生まれる。あるいは追跡が始まる。謎に向けて憧れに向けて盗られたものに向けて。次第にクレッシェンドし時には激しい転調を伴って。全体にモノクロ映像的。その中イタリア滞在ものには色彩を感じる。戦争で疲弊していてもそこはかつての栄光の地。その地での思わぬ夢実現!?の期待膨らむ。と、匕首のような結末が…。2016/12/10