出版社内容情報
棄てられた娘、自分の血に苦悶する男、狂信的な元牧師。互いに見知らぬ三者の物語がぶつかり、南部で小さな町ですれ違う。(全二冊)
内容説明
これはおれの人生じゃない―ともに過去に囚われた男と女。二人の愛人関係は女の殺害と男の素性の暴露、そして次なる惨劇を呼ぶ。事件の最中に無垢なるリーナは赤ん坊を出産。運命に翻弄される南部の人びとの光と影が鮮やかな、フォークナーの傑作長編。
1 ~ 1件/全1件
- 評価
本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
89
南部白人によるヒステリックまでの黒人憎悪。そこには他者を搾取してまで得た、自分のアイデンティティが侵食され、覆されるかもしれない事への恐怖があったかもしれない。だがそのために僅かに黒人の血を引いているかもしれないという理由で忌み嫌われるクリスマスの人生は余りにも惨すぎた。上巻の最後で彼は黒人ではなく、ケイジャンの血を牽いているのではないかという話も出てくるが、その状況に抗ってまで生きようとしたクリスマスは迫害され、殺害される。その名を戴いたイエス・キリストのように。2017/04/26
yumiha
40
上巻でクリスマスが意識と無意識の中間のような自己認識と感想を書いたが、さらに加えて主要人物以外の視点で出来事を語られる場面も多く、本人はどう思ってたのか?が曖昧な感じがした。ま、自分で自分を語ったにしろ、それが真実だとは限らないわけだけれど。何しろ自分で自分の感情やら行動やら思念やらを正確に把握できている人は稀なわけで、それを言葉という不便な手段で表現するから、曖昧になってしまう。その微妙な限界を作者フォークナーはよく理解していたから、曖昧さを残したのだろうか?ラストのリーナは、自覚的だと思ったけれど。2025/05/29
南雲吾朗
26
継続して読みつつも、他の本に浮気ばかりしていたので、読み終わるのに随分と時間がかかってしまった。単一民族(モンゴル系民族)で社会構成されている日本で暮らしていると、移民の国であるアメリカが抱えている人種差別問題の深い根の部分というのは、本当の意味では理解できないのかもしれない。2017/11/18
みつ
19
下巻はクリスマスの凄惨極まりない逃走の場面から。白人からの黒人の蔑視は、黒人の血の混じる彼の白人への犯行を容赦せず、彼自身の自己も引き裂かれる。彼の出生の秘密を知る老夫婦の歪んだ感情。南北戦争を戦った祖父の幻影の中で育った牧師の回想。この第20章は、「彼」と「息子」の示すのが誰かが当初判然とせず、‘全編中最も難解だが、南北対立の影を三世代の重なりの中表現したものか。事件の残忍な終結。リーナは出産を終え、乳飲み児とともに旅に出る。冒頭と見事に呼応する彼女の呟きが、重苦しい血の物語にわずかな救済をもたらす。2021/08/28
蛇の婿
19
ちょっと苦労しつつ読了。一年か二年くらい読むのにかかったなぁ…三人の主人公の中でハイタワーの心情だけがいまいち未消化な印象。結局ハイタワーは自分だけで完結している人なんだろうと読み取ったけれど、なんだかいまいちよくわからない。リーナもクリスマスもハイタワーもアメリカ南部の人間の一側面のステレオタイプであるのだろうけれど、日本人の私には実感という面でいまいち理解が足りないからでしょうか…この話読んでいて、リーナが出てくると実にホッとしますね。ラストは大好きです。2020/08/25