出版社内容情報
デラーノ船長はチリ沖を無残な姿で漂流するスペイン商船に遭遇した.病みほおけた船長セレーノ,片時も離れずかいがいしくつき従う黒人の従僕.船内にたちこめる異様な気配の源は何か.表題作のほか,事あるごとに雇主に「僕,そうしない方がいいのですが」と言う奇妙な男の物語『バートルビー』を収めた.傑作ゴシック小説二篇.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
鷺@みんさー
35
メルヴィル読みにくいねん!新訳なら読みやすかったんだろうが…まぁ、これはこれで文章の妙を、1ページ毎にゆっくり噛み締めたのだけど。でもちゃんと読んで良かったよ。まさに急転直下、いきなりのあのシーンから、真相が解り始めてのくだり、なんだこりゃめちゃくちゃ面白いぞ。てっきり、なんか悪魔的な(超自然的な)災難に見舞われてるのかと思ったよ後半まで。普通にデラーノもそのまま彷徨う幽霊になって永遠に帰りつけないのかと。真相が解ってから序盤の、とんでもなく精神不安的なセレーノや気味の悪い忠臣黒人を読み返すとすげー面白い2024/09/12
壱萬参仟縁
32
1853年初出。彼の唯一の推理小説(解説255頁)。時にはかなりな時間を自由にできたはずなのに、読書をしているところを見たことがない―いや、新聞すら読んでいない(201頁)。人類は宇宙創造この方、殺人を犯してきました。嫉妬、怒り、憎しみ、利己心、霊的誇りのために(219頁)。2016/01/25
やいっち
27
この「物語はデラーノ船長(フランクリン・D・ルーズベルト大統領の遠い祖先に当たる、実在の人)の航海日誌にある実録からとられている」。「反乱奴隷たちもスペイン船長も実話のまま」だとか。本書は、『白鯨』で一躍寵児になりつつも、次作の『ピエール』の不評で評判がガタ落ちしたメルヴィルが、一般向けにと、彼独自の神秘性や哲学性を控え、推理小説風に書いたもの。 2017/09/02
zumi
19
「バートルビー」のみ。まるで写本に飢えていたように、大量の書き物をするかと思えば、「ぼく、そうしないほうがいいのですが」と突然言い出し、それが執拗な決まり文句として繰り返される。彼は常にそこに存在する。しかし、彼は不動であり、静寂を保ち、答え以外に口をきかない。彼は不可能性の呈示(=そうしないほうがいいのですが)に終始し、書くことからも遠ざかる。さらには主権の問題とも深く関わり、する/しないの決定の間で宙吊りになる。ドゥルーズもアガンベンも取り上げた、この不可思議な人物は、知っておいた方がいいだろう。2014/05/16
藤月はな(灯れ松明の火)
19
「幽霊船」の古風な文体が見事に船に澱む不気味さを描写していました。「バートルビー」はどうして彼が恩を仇で返すように否定する生き方に走ったのかということが分からず、自分の立ち位置を理解しながらも否定し続けることに理解できない薄気味悪ささえ感じました。2011/12/01