出版社内容情報
高度な遺体修復術に,どんな死に方でもお任せください――ハリウッドの葬儀産業を舞台に,詩人の卵・遺体化粧師・修復師が繰り広げる〈愛〉の物語.「神経のタフな読者へ」とウォー(1903-66)が贈る「死を忘ることなかれ(メメント・モリ)」は,暗喩と引用を巧みに織り込み,鋭いユーモアの奥に深い余韻を残す.
内容説明
高度な遺体修復術に、どんな死に方でもお任せください―ハリウッドの葬儀産業を舞台に、青年詩人・遺体化粧師・修復師が繰り広げる“愛”の物語。「神経のタフな読者へ」とウォー(1903‐66)が贈る「死を忘れることなかれ」は、古典と暗喩を巧みに織り込み、鋭い諷刺の奥に深い余韻を残す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
130
読みやすい文章に流されるように読んでも、そこに埋め込まれた重い皮肉から目を逸らすことはできない。イギリス対アメリカの文化の底にあるものたち。アメリカの商業主義、情のなさと切り捨て、博愛精神の裏にある偽善。イギリス人の見栄、WASP的自尊心、必死で守ろうとするものの滑稽さ。彼らが隠そうとしても、遺体に施される死化粧と同じように隠し切れない。おぞましい死に手を施して、美しいものに作り替えようとするのは、芸術ではない。そこに心が介在していないから。それは詩を盗み取るようなもの。結局みんな同じ穴の貉。2016/02/27
のっち♬
114
英国文学者が観察する米国葬儀産業の実態。精巧な技術を駆使して施される遺体修復と化粧への腐心は著者に衝撃を与えた。加工前も加工後も遺体はグロテスクな描き方。それは欧米相互理解の袋小路で炙り出されるスノビズムまで敷衍され、文体やストーリーにも"化粧"を施して自身を含めて冷笑し倒す。一筋縄でいかない語りや注釈、象徴性を際立たせたプロローグやエピローグ、エピソード間に挿入される引用と暗喩に富んだ詩文の卓越は、全体構造を緊密かつ有機的に仕上げている。読者のタフネスを試す傍若無人ぶりが苛烈に発揮された愛ある風刺小説。2023/02/25
星落秋風五丈原
48
【ガーディアン必読1000冊】イギリスから独立したにもかかわらず、いつの間にか人も金もイギリスを越えてしまったアメリカが、たった一つ持っていなかったのは伝統ある歴史と文化だ。買われたのは物だけではない。イギリスの人々も望まれてアメリカにやって来た。ところが、いつまでも有難がってくれるわけはない。賞味期限が過ぎれば飽きられ、捨てられる。捨てられた者達がやって来るのは墓地。エイミーを口説く二人の男性がアメリカとイギリスを象徴していると考えるとウォーの両国観が透けて見える。ブラックなウォーのトラジコメディ2018/11/11
藤月はな(灯れ松明の火)
43
光文社古典文庫版「ご遺体」と読み比べ。訳文と最早、知っている人には分かっているだけに邪魔な註の入っていないこちらの方が好みでした。しかも副題が「英米の悲劇」の上、デニスが剽窃した詩に関する註も程よく、この物語の暗喩となっていることを教えてくれています。お悩み相談に答えていたバラモンがしつこいリピーターの悩みに「じゃあ、とっとと死ねば?」という所が不謹慎にも同感してしまいます。それで罪悪感を抱くか否かは本人次第ですし。死体が人間か動物かで「死体=尊厳のある存在か物か」が変わるのに行き着く結論は同じなのも皮肉2013/05/27
白のヒメ
35
葬儀場で働く美しい女(退廃的な美に憧れる=死)を軸に、死人に天才的な死に化粧をする中年のマザコンの男と、ペット専門の葬儀場で働く詩人のイギリス人との恋の争いの物語。小説的な人間の男女の関係ではまあ、ありきたりだけれど面白かった。死に憧れる女をめぐる恋のさや当て。シェークスピアっぽく古くさい感じは否めないが。2018/01/09