出版社内容情報
ふと目の前をよぎる人生の断片,微妙な心のゆらめき,だれもが経験しながらはっきりとつかまえておくことのできない心象風景.マンスフィールドほど透明な美しさでそのような人間心理の内側を作品に結晶させた作家は少い.文学に憑かれ若くして病苦と貧窮のうちに世を去ったこの女流作家の代表作をあつめる.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
28
お洒落なカフェでアフタヌーンティを愉しみながら読了。可愛らしい子供視点で見る親の哀しさへの温かなまなざしやドタバタの家族像への冷笑や皮肉、ほのぼのとする子供たちの会話で展開される叙情溢れる英国小説。特に病床の時に描いたとされる『蠅』の短い中に凝縮された不条理感や虚無の描写は秀逸としか言いようがありません。2013/10/28
ソングライン
22
初めて人の命に限りがあることを知り、死なないでと祖母に懇願する幼い女の子が可愛くも切ない「入り海」、身分の違いに関係なく訪れる死、その尊厳を少女の目を通して描く「園遊会」、父のいない貧しい姉妹にかけるまだ邪心のない純粋な少女の憐れみが美しい「人形の家」、生と死の間にある人間の悲哀を描く作者の世界に嵌ります。2022/09/09
Fumoh
4
マンスフィールドは特別なにか出来事が起こるような話を書くことはない。始まりもなければ終わりもない。ちょっとした風景を切り取って、そこに流れている登場人物の微細な感情をすくい取っていく。特別なにかの狙いがあるようには見えず、その点においては難解であるとも言える。しかしわたしの意見からすれば「感情」という(しかも詩的な感情というものの)性質を、ただそれのみで著しく作品価値としてみなすことは、どこか実体のない信仰的行為であるにもかかわらず、ただ自己存在を崇めていくことに繋がるのではないかという、いかがわしい印象2024/11/10
読書日記
3
物語性はなく、ただ人の心情を追った所謂純文学なのに、意外にコミカルなものがあったり、子供が主人公の[人形の家]は、〈あたしのクオレ〉を思い出す内容。ちょうど似たような貧しい家の姉妹が登場する。[入り海]ジョナサンの、自分の人生を囚人のものと変わらないとする理論は、きっと誰もが共感するものだろう。解説によればマンスフィールドは主人公の内側に入り込んで小説を書く、主人公が過去の自分だとしても、それは今の自分から見れば赤の他人だから、それを心理描写するのは凄い技術だという。創作の際には参考にしたい技術だと思う。2024/11/06
讃壽鐵朗
2
若くして結核で死んだ女流作家と言えば、樋口一葉がすぐ浮かぶ。やはり日本人は、日本の作家が理解しやすい。2017/01/09