出版社内容情報
宇宙の生の力に駆られる女性アンは,許婚の詩人ロビンスンを捨て,『革命家必携』を書いた精力的な男タナーを追いつめ,ついに結婚することになる.ショー独特の超人哲学に美しい芸術の衣を着せた四幕の喜劇.読者は時に微笑し時に苦笑し抱腹絶倒しながらも,その奥底に厳然とした人生の姿を垣間見ずにはいられない.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
24
ドン・ファンが現代に生きていたら、すべての既成の価値を否定して革命思想を標榜するジョン・タナーのような人物になっていただろうか。しかし、皮肉なことに、彼は思うように行動できず、アンに言い寄られて、最後には、彼が忌み嫌う結婚をさせられてしまう。彼女にマフラーで首を絞められる場面が象徴的で、伝説とは立場を逆転して、ドンナ・アンナがドン・ファンを誘惑するのである。現代において、ドン・ファンであることは喜劇的な道化になることを意味しているのだろうか。長くて複雑な劇だが、上演の動画を見ると三十秒ごとに笑いの渦。2023/07/03
Koichiro Minematsu
12
革新家のタナーを追いつめ、結婚するアン。アンの生き方に「生の力」がある。創造力の盲動こそ人間私的なものではなく、全宇宙的目的であり、人が活発に「生の力」を働かせ超人でなければならない。精力的考えアン>革新的考えタナー>芸術肌オクタビアヌスの三角関係。宇宙の目的は、搾取の力。2017/02/25
壱萬参仟縁
11
タナーは、「ほんとうの芸術家というものは、 妻を飢えさせ、子供をはだしにし、 七十になる母親に、生活の手助けをさせても、 自分の芸術以外のことは、何一つしない」(48頁)。 それだけ、作品に全身全霊打ち込む者、 覚悟がちがうのだ。 取柄なしで養育院に行くが、骨折りなく、 いい物を食べ、いい着物を着、いい家に住む ことができる(132頁、第三幕開幕)。 T.ヴェブレンの見せびらかしの消費を思う。 結婚とは制度のうちで、最も放縦(気まま、212頁)。 2014/04/15
無能なガラス屋
8
「お前は、貧乏がどんなものだか知らんのだよ。」「ええ、どんなもんだか知りたいんです。わたしは、一個の人間になりたいんです。」それぞれの魂が必要とする経験は当人にしかわからない。貧乏暮らしをしてみたいという一見奇妙な欲望だとしても、周りの人間が口出しするのは馬鹿げたことなのだ。お節介なのだ。2022/05/06
のほほんなかえるさん
4
このお芝居は英語(原文)でこそ楽しめるものではないだろうか。タナ―の信じれないほど膨大な台詞。これを翻訳劇の言葉として語りこなせる俳優が果たして日本にいるのだろうかなどと思いをはせた。ナショナルシアターライブ(NTL)で鑑賞したのを機に読み返してみた。本著の概説ではヒロイン・アン視点での解説がなされているが、NTLではタナ―視点で描かれる。そこに大きな違いを感じる。基本的にはラブコメディ。「ピグマリオン」にも通じる点が多々見られる、偏屈独自の価値観を持った登場人物たちが多様に入り組む傑作喜劇。2017/08/02