出版社内容情報
妖しい美しさで王エロドの心を奪ってはなさない王女サロメ.月光のもとでの宴の席上,7つのヴェイルの踊りとひきかえに,預言者ヨカナーンの生首を所望する.世紀末文学の代表作.ビアズレーの挿画をすべて収録.改版.
内容説明
月の光のもと、王女サロメが妖しくうつくしく舞う―七つのヴェイルの踊りの褒賞に彼女が王に所望したものは、預言者ヨカナーンの首。ユダヤの王女サロメの恋の悲劇を、幻想的で豊麗な文章で描いた、世紀末文学の代表作。ビアズレーの挿絵18点を収録。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
319
リヒャルト・シュトラウスのオペラでは馴染んでいたが、その原作となるこの作品を読んだのは初めて。オペラは原作にかなり忠実に造られているが、それはひとえにワイルドの戯曲が持つ強い求心力によるものだろう。もっとも、ワイルドの作品も「マタイによる福音書」第14章(マルコ、ルカにも同様の記述あり)に語られる洗礼者ヨハネ(ヨカナーン)の最後の記述に基づき、そこにワイルドの世紀末的な幻想が加えられたものだ。そして、ここに見られるのは月の光に照らされた冷やかな耽美である。ビアズリーの挿絵もそこに冷たい官能性を加えている。2013/01/15
のっち♬
175
ヘロデの継娘による洗礼者ヨハネ(ヨカナーン)の誘惑の試みを精巧かつ華麗な詩情で描く。新約聖書を題材に唯美主義を提唱する大胆さの中に、理解されない恋に苦悩する作者を感じる。シュールなまでに感情発露が一方通行。色彩、星、鳥、宝石などの自然物を駆使した比喩とイメージに富んだ散文は音楽的流動性があり、殆ど詩文的性質を持つ。ビアズリーの挿絵と相まって、精神性と官能性を両立させた自在な心情表現は象徴主義でも稀な次元。モチーフの反復をリズミカルかつ芳醇に表現した福田の翻訳が見事、スペクタクルに惑わされない冷静さの賜物。2023/01/29
ケイ
149
あまりにも有名な話。今回は、サロメに物凄く共感した。20歳位のイザベルアジャーニかソフィーマルソーをすごくほっそりとさせて想像する。サロメの舞う様子。望むものを聞かれ、どんなに高価な稀少な物を見せつけられても、欲しいのはヨカナーンの首だと毅然として言い続けるサロメ。それが手に入っても、ようやく唇に触れられても、ヨカナーンの瞳は輝ず、口は何も語らない。そこで刺されずとも、彼女は絶望で倒れただろう。若さゆえの無謀を止められない愚か者達の群れが引き起こした悲劇。ヨカナーンは首を切られる前に何を思ったか。2016/10/24
nobby
137
「お前の口に口づけしたよ」その有名なピアズリーによる挿絵、そこに描かれた或る男の斬り首を目前に微笑む女の姿に思い浮かぶのは狂気の沙汰の悪女像。何故に彼女がその男の首を欲したのか、そこには無垢で一途な恋心しかない…色目ばかり向ける周囲に嫌気さす中で惹かれた一人の男、しかして彼は「近親相姦の母より生れし娘」と侮辱して目も合わせようともしない哀しさ…「一目でいゝ、あたしを見てくれさへしたら、きつといとしう思うてくれたらうに。」サロメが今はもう何も言はないヨカナーンの首に必死に語りかけるラストはたまらなく切ない…2018/11/30
まふ
127
ワイルドの問題作。新訳聖書マタイ伝およびマルコ伝をもとにしたとされるが直接のつながりはなさそう。叶わぬ恋情のためにバプテスマのヨハネの首を欲しいと願うサロメは悪女の見本とされるが、R.シュトラウスの歌劇にも取り上げられたりして人気は高い。19世紀末の退嬰的な行き詰った世情に相応しい糜爛した作品であると思った。2024/09/19