出版社内容情報
理想主義者でロマンティックなちっとも王らしくない王が遊び廻っているうちに,宮廷は悪者たちの権謀術策にまきこまれていく.この物語は作者が「宝島」等の少年ものの後にはじめて書いた大人のロマンスである.プリンスのかもすロマンティックな雰囲気,諸人物のリアルな動き,この2つの微妙な交響が一篇を世にもユニークな作品たらしめている.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Speakten
4
構成要素や登場人物の布陣はすばらしいのだが、主人公が常に消極的なのでいらいらさせられる。本人も自覚しているように、問題に立ち向かう意志を持ち合わせないのだ。君主に不向きな人物が、自分の「弱さ」ゆえに失敗を重ね、どんどん立場を悪くしていく。そこさえ納得して読めば、意外さ満載なストーリーと言える。お忍び中、市民から耳に痛いことばかり聞かされるユーモア。大臣が戦争を企てる目的が、失政から人民の目をそらすためというリアリズム。詩情あふれる王妃の逃避行の描写を経て、一篇のファンタジーとしての美しい結末が待っている。2024/01/03
きりぱい
4
度々出奔して、国政をおろそかにしてきたプリンス・オットーが耳にしたのは、世間に行き渡る自分の悪評判。恥じるところあれば憤るところもありで、早速帰って糾明したところ、首相の息のかかった妃先導で国政は動かされ、オットーは策略にはまる一歩手前だった!断罪し巻き返すと思いきや、どうも裁きに温厚過ぎて、気付けば自ら網にかかるすさみよう。なかなか面白いのだけど、オットーが愛を信じるいい人過ぎて、フォン・ローゼ伯爵夫人の方に魅力を感じる。2011/06/20
takeakisky
0
日陰の日時計に陽がさす。面白い。とはいえ、そんなに賢けりゃ、もちっと早く気づくやね。オットー、ドイツ語圏の小国の君主。隣国で一夜の宿を借りた農夫から聞いた話で目が覚める。私が公をつくるが、成熟する公からいつの間にか私は疎外を覚える。つまらぬ公が、私によってふたたび取って代わられるとき、快哉をあげたくなる。はじめから私しか持たない伯爵夫人、公の枠組みのなかで私の欲望を育てる男爵、私も公も狭小な世界の公妃、公のために全てを犠牲にする価値観はあるが、気概に欠けるプリンス。それぞれのギャップが作りあげるロマンス。2025/04/19
たくぞー
0
古い漢字が使われているので、読めない部分が所々あった。自然の情景を使った心理描写や主要人物間の愛憎劇など、舞台演劇のようで、ヨーロッパ人が好きそうだなあと思った。2021/10/03