出版社内容情報
愛しながらも周囲に説得されて婚約者と別れたアン.8年が過ぎ,思いがけない再会の時を迎えた….南イングランドの美しい自然を舞台に,心の底にしみ入るような魅力をたたえた,オースティン最後の作品.【改版】
内容説明
愛しながらも周囲に説得されて婚約者と別れたアン。八年の後、思いがけない出会いが彼女を待ち受けていた…興趣ゆたかな南イングランドの自然を舞台に、人生の移ろいと繊細な心のゆらぎがしみじみと描かれる。オースティン最後の作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
346
本書の刊行は1818年なので、ちょうど200年前。いかにも19世紀小説を読んでいるという感慨は味わえる。しかし、現代小説を読みなれた身にはなんともまだるっこしい小説でもある。愛していたにもかかわらず周囲の反対から結婚を断念したアン。ウェントワース大佐との再会後も煮え切らないこと夥しい。父親のエリオット准男爵もまた長女だけを偏愛する。読んでいて、しばしば歯がゆい思いにとらえられるのである。ヴァージニア・ウルフの評言「何か特別の美しさと特別の退屈さ」は、本書の本質を見事に言い当てているだろう。2017/10/13
遥かなる想い
226
オースティン最後の作品。 18世紀英国の穏やかな雰囲気が心地よい。 当主エリオット卿の行動がいかにも英国の 上流階級の傲慢さを醸し出すが、なぜか 懐かしく好感を覚えるのはなぜなのだろうか。 アンとウェントワース大佐の8年振りの 再会から始まる物語..家柄と地位と資産が 大きな要素だった時代の風景が単調に 描かれる。悪意・裏切り・妬みなどが満載の 現代から見ると物足りない展開だが、 当時の英国の風景は感じられる。2016/05/01
NAO
51
再読。オースティンの作品の中で一番好きな話。アンはオースティンの作品に登場する女性としては全く目だつところのない静かな女性で、だからこそ家族に振り回されて一度は恋を諦めさせられるという憂き目に遭う。「アンは若いころ分別を強いられ、年をとるにつれてロマンスを学んだ」とオースティンは書いているが、それは、作者自身の心境の変化で、作者自身のこれまで生きてきた来し方に対する述懐のように思えてならない。 この数年後オースティンが亡くなったことを思うと、なおさらである。ハッピーエンドに心から拍手を送れる作品。2015/12/01
みつ
39
オースティンの最後の作品。『ノーサンガー・アビー』と合本の形で出版されたとのこと。今回続けて読むと、「どれも似たよう」と言われる彼女の作品も、大きな違いがあることを実感。前作のヒロインと10歳ほどの年齢差もあり、ひたすら夢見がちな彼女と異なり、婚約解消の過去を持つ本作のヒロイン、アンはずっと思慮深く、それだけ地味な存在。狭い世界ではあるが多くの登場人物がひしめいて、本題であるべきはずのラブ・ロマンスは後景に退いた印象。妹夫妻とその義妹、従兄のエピソードが絡み合いながら、最後に落ち着くべきところに落ち着く。2023/08/17
syota
27
オースティン最後の長編。これまで読んだ3作の主役はいずれも理知的な女性で、後ろを振り返って悩んだりはしなかったが、今回の主役アンは、過去に下した判断のせいで苦悩するなどより生身の人間らしくなっており、作者の変化が伺える。一方、父のエリオット准男爵は尊大で、階級が少しでも下の者は思い切り見下すくせに、本物の貴族に対しては卑屈なほど腰が引けてしまう。この辺に、英国の階級社会に対する作者の皮肉な視線を感じる。プロットが今ひとつ盛り上がりに欠けることは事実だが、人物描写は深みを増していると感じた。[G1000]2016/01/24