出版社内容情報
創世記の一節にある弟アベルを殺したカインの話を5幕に書いた詩劇.罪と姦淫を弁護し,カインに託して作者の悪魔主義を高揚したもので,発表当時宗教界その他から非常な攻撃を受けた.全体をつらぬく自由奔放な詩想,辛辣な諷刺と諧謔は,かつてゲーテが絶讃したところであり,悪魔的な魅力は世紀の人びとの心をとらえた.
内容説明
『創世記』にあるカインの弟殺しの話を五幕に書いた劇詩。カインに託して作者の悪魔主義を高揚したもので、発表当時非常な攻撃を受けた。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
94
『旧約聖書』の「創世記」第4章のカインの逸話は、どう捉えるべきなのか困惑する典型的なものの一つだ。この作品は、戯曲形式によって、この問題に対するバイロンの解釈を示したものである。バイロンは聖書のこの場面には登場しないルシファーをして、カインに広大な宇宙空間から地球を遠望させ、また人類以前に絶滅した種族を語って聞かせる。このあたりのスケール感は見事だが、全体には劇的であるよりも、いたって形而上的な内面のドラマといった趣きが支配的だ。バイロンは殺人者として荒野を彷徨うカインの姿にこそ人間の本質を見たのだろう。2013/11/16
ふくろう
9
人類初の人殺しとして有名な「兄弟殺し」をテーマにした作品。なぜ神は天に知恵の木を置いたのか?それは「わざと」ではないのか? 神への疑惑は募る。けっこうばりばりの神話系かと思いきや、2幕で「2001年宇宙の旅」みたいに宇宙を旅するのでびっくりした。2009/11/08
とまと
8
この本を読んだ動機は、プーシキンらが影響を受けたというバイロンを読みたかったのがひとつと、カインとアベルの話が題材になっているというのがひとつ。私がカインとアベルの話を最初に知ったのが、「カインはアベルに対する嫉妬に狂って殺し、スティグマを付けられ殺されることなく彷徨う罰を受けた」というもので、うーん。感想はもう少し寝かせます。『マンフレッド』も読んで考えたい。2012/09/30
てれまこし
5
不細工な世界を創造し、人間があらゆる不幸に陥るように仕向けといて、それに対して血の生贄をもって感謝を強要する神は暴君だ。オレが一体何をして、こんな呪いを受けるのか。ロマン主義にとって、苦行僧や悪魔と並んで、カインは不条理な世界への反逆のお気に入りの形象らしい。親たちが死という高い値を払って手に入れた知恵は疑いばかりをもたらし、何の幸福ももたらさない。知れば知るほど人間の存在はつまらなく見える。しかし、その悩み苦しむ分だけ、暴君にひたすら恭順を誓う小市民たちよりカインは悪魔は近く、したがって神にも近くなる。2019/03/09
酒井一途
5
生きて耐え忍ぶことは辛く悲しみであり、人々は子らに生を与えることでまた新たな、永劫の苦しみを生み出してしまう。その永続的な営みこそ、知恵の実を食したことへの贖罪。幸せであれるのは幼子の時分だけ。なんと厭世的なことか。それでも愛だけは残り得るとは真実や否や。2012/12/02
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