出版社内容情報
「一敗地に塗れたからといって,それがどうしたというのだ? すべてが失われたわけではない.」かつては神にめでられし大天使,今は反逆のとが故に暗黒の淵におとされたサタンは,麾下の堕天使の軍勢にむかってこう叱咤激励する.神への復讐はいかにして果さるべきか――.イギリス文学の最高峰というにふさわしい長篇叙事詩.
内容説明
サタンの言葉巧みな誘惑に屈したイーヴはついに禁断の木の実を口にする。アダムもまた共に亡びることを決意して木の実を食う。人類の祖をして創造主に叛かしめるというサタンの復讐はこうして成った。だが神のつかわした天使ミカエルは、犯された罪にもかかわらずなお救いの可能性のあることを彼らに説いてきかせる―。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
94
誘惑、追放といったことが書かれていきます。言葉巧みなサタンによって禁断の果実を食べてしまったイーブの罪に始まり、共に滅びることになったアダムの運命。上巻がサタンの天からの追放だとしたら下巻はアダムとイーブの楽園追放。禁断の果実の物語を神話や古代詩、預言などの要素と独自の神学論から語ることでドラマチックな物語へと昇華させているように感じました。楽園追放後のミカエルの言葉は「死」から「贖罪」へ繋がる聖書のエッセンスのように思えます。罪の中で最後に救いが見えたのが印象的でした。2016/01/22
藤月はな(灯れ松明の火)
92
イーヴを堕落の罪から救うために自ら、林檎を食べたアダム。しかし、知恵をつけた事は、「完全」でないことを気づかせて絶望と不信に陥るきっかけになってしまった。その後に起きる二人の責任の擦り付け合いの喧嘩が男女の諍いによく、見られるものなのでその生々しさと変わらなさに苦笑するしかない。神が上から見線で人間を早々と見放したのに対し、サタン側に就いていたミカエルは優しい。これから子孫に起きる困難(カインによるアベルの殺害、大洪水など)と彼らの魂が救われる事(イエス・キリストの登場)をアダムに見せるシーンはSF的です2017/07/26
HANA
70
下巻は天使が語る天地創造の様子から、サタンによるイブの誘惑、アダムとイブの楽園追放まで。上巻に比べてサタンの出てくる場面が極端に減り、主にアダムと天使の対話が中心となっている。特に知恵の実を食べてからは傲慢と自己憐憫と言い訳が目立ち極めて退屈。見所はサタンがイブに知恵の実を食べるよう唆す場所くらいか。上巻で肯定的に捉えられた自由意志による信仰というものも、不信に対する罰という実質選択肢を奪うようなやり方で悪質なものに感じられる。楽園追放という主題は面白いけど、やはり自分には内容が合わないと感じられたなあ。2019/03/18
優希
56
誘惑と追放の物語が描かれていると言えますね。サタンの誘惑により、禁断の果実を口にしたイーヴ、共に滅びることを決して運命を共にしたアダム。アダムとイーヴの楽園追放をなしえたことで、サタンの復讐が成ったのでしょう。大天使ミカエルの存在が唯一の救いの可能性なのかもしれません。キリスト教文学の原点的作品だと思いました。2022/01/11
優希
48
下巻は創世記のアダムとイブの楽園追放が軸になっているように思えました。サタンは言葉巧みにイブを誘惑し、アダムも共に罪に陥る決意をする。これがサタンの復讐が成就したということでしょう。大天使ミカエルが唯一の救いの可能性だったに違いありません。単なる罪と罰の物語に終わらせないところに惹かれます。2024/04/10