出版社内容情報
微妙な女ごころを描いては古代ギリシアに並ぶもののなかったエウリーピデースの代表作.王妃でありながら,美青年ヒッポリュトスを慕い,ゆるされぬ恋に悩むアテーナイの王妃パイドラー.やがて彼女はわが身とともに,恋人をも破滅に導いてゆく.この物語はラシーヌの『フェードル』をはじめ,後の多くの西欧作品に影響を与えた.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
334
エウリピデスの悲劇。ギリシャ悲劇はいずれも多かれ少なかれそうなのだけれど、神々や神託の理不尽さが劇そのものを支配している。この劇でもアプロディテーのヒッポリュトスに対する嫉妬が、悲劇のすべての根幹である。それを認めつつ、やはりそれでも運命に翻弄されつつパイドラーとヒッポリュトスの悲劇が構成されるのである。パイドラーとヒッポリュトスそれぞれの葛藤は単純ではあるものの、ある意味では本質的である。劇の初演は紀元前428年のようだが、この劇の理不尽さは、ほとんど現代劇における不条理といっていいのではあるまいか。2018/01/29
ktmkktaa
7
とことん悲劇だけれど、哲学的なセリフにドキッとしたり、、『若きウェルテルの悩み』を思い出したり『源氏物語』を思い出したり、、、2014/04/06
はる
5
エウリピデスはこの劇を幾つかのパターンに創作したようだ。この作では継子ヒッポリュトスへの並々ならぬ恋慕〜これはキューピッド女神がヒッポリュトスの女性への関心の無さへの報復の為に〜を継母パイドラーに抱かせ、背徳故に自死するパイドラーの悲劇とその讒言に取り憑かれた夫テーテウスの悲劇が息子ヒッポリュトスを死に追いやる悲劇。更にはパイドラーの乳母の出過ぎた立ち廻りがパイドラーを引き返すことのできない立場に追い立てた悲劇。総て道徳的観念に縛り上げられる悲劇に飾られ満たされた舞台。→2024/11/25
星屑の仔
3
解説を読んで考えた。 「ヒッポリトスとパイドラーの2人の主人公を悲劇で包んだ、その決定的な力は何か?」 自分は「苦しみの概念」だと思っている。 そもそもアフロディーテはなぜ、ヒッポリュトス本人に呪いをかけずに継母のパイドラーにのみ魔法をかけたのか? ヒポリュトスが継母に対し劣情を直接抱けくようなことがあれば問答無用で極刑で、彼を罰するのに手っ取り早いし何より正確だ。しかしそうしなかった。テーセウスが言っていたが、ただ殺すよりも苦悩に満ち無駄に長く生き続けることが、何にも勝る苦痛だったのではないか2017/08/24
in medio tutissimus ibis.
3
話の筋や結末はもう神話に題材をとる以上は決まり切っているというのがギリシャ悲劇の作法なので、登場人物の行動をより納得できるものにするべきだ……と考えるのは現代人的な物言いでしかないが、これは少々度が過ぎている。結末が機械仕掛けの神なのだが、しかし舞台装置であるという点ではパイドラー以下の登場人物もさほど違いがあるようには思えない。あるいはそう、「所詮われわれ人間も、自由に生きているつもりでいて、突然馬に引かれる様にままならない力に弄ばれて無残に死ぬのだ」…と言い放つのは、いささか虚無主義が過ぎるだろうか。2016/03/22