出版社内容情報
人が人を食うという妄想にとりつかれた「狂人日記」の「おれ」,貧しい日雇い農民でどんなに馬鹿にされても「精神的勝利法」によって意気軒昂たる阿Q.表題二作とも辛亥革命前後の時代を背景に,妄想者の意識・行動をたどりながら,中国社会の欺瞞性を鋭くえぐり出す.魯迅最初の作品集『吶喊』の全訳.
内容説明
魯迅が中国社会の救い難い病根と感じたもの、それは儒教を媒介とする封建社会であった。狂人の異常心理を通してその力を描く「狂人日記」。阿Qはその病根を作りまたその中で殺される人間である。こうしたやりきれない暗さの自覚から中国の新しい歩みは始まった。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ehirano1
129
「精神勝利法」とやらを特技とする阿Qさんがいろいろな人にボコボコにされ、挙句、冤罪で銃殺刑に処される話。と、こんな感想では身も蓋もないのですが、事実そんな話でしたwww。諸悪の根源は「精神勝利法」です。2024/10/05
ehirano1
84
「狂人日記」について。そのタイトルどおりに主人公の狂人ぶりにぶっ飛びます。一方で、著者が中国の近代文学の父であることを考慮すると、月光により「狂気」が誘発される点が大変興味深く、これは清王朝が滅びて新しい時代を迎えた当時の中国における価値観のパラダイムシフトについて書いたモノでもあるかもしれないと思いました。2025/03/23
Willie the Wildcat
76
作品に込められた政治的思想。司法制度、医療制度、任官制度などを踏まえた格差社会。学歴偏重や飲酒、児童労働や人口政策などの社会問題。前者からは『狂人日記』。表層的には心情を理解してもらえない苦悩だが、日本で医学を学んだ著者の医学的警鐘と解釈。後者からは『兎と猫』。最後の件の”排除”が象徴的であり、畏怖すら感じさせる。唯一政治の臭いを感じさせないのが『村芝居』。非日常を堪能した思い出。羅漢豆の味に違いがあるのも、至極当然であり共感。2019/06/28
ちくわ
74
魯迅の思想が多分に盛り込まれた短編小説群。世界から畏怖された眠れる獅子⇒西欧列強に喰い物にされ大没落⇒国民革命という激動期の中国のリアルが窺い知れる。が、何も中国に限らず、世界中で普遍的に起こっている『思考停止に陥った民衆』の危うさが描かれている。日本なんて典型例だな…。さて、印象に残ったのは藤野先生。先生のような人と出遭えるか…掘り下げれば、先生のような人に選ばれるか?が人生を大きく左右する。昨今投資がブームだが、投資はするんじゃない…自分が投資されるには?を考え実行する事が大切だと自分は思っている。2025/05/12
夜長月🌙新潮部
69
魯迅作「阿Q正伝」は文学史上の重要作品として国語の授業で習って名前だけ覚えていました。正伝とあるので伝記的なものと思っていましたが、初めてその中身を読んでみて主人公の阿Qが徹頭徹尾あまりにも愚かであることに驚き。解説を読んで阿Qは私かもしれないと理解しました。2024/10/04