出版社内容情報
安岡章太郎(1920-2013)は、1950年代に登場した戦後文学を代表する作家。短篇小説の名手として知られる。戦時下での青春の挫折、軍隊での体験、敗戦直後の占領下、戦後の日常生活… ユーモアとペーソスに溢れた繊細な文章で、人の心の襞を描き出した。新しい時代の到来を告げた清新なデビュー作「ガラスの靴」から円熟期の作品まで14篇を収録。
内容説明
「あなた、ヒグラシの鳥って、見たことある?」―ユーモラスにして清新な文章で、新時代の到来を告げた安岡章太郎(1920‐2013)のデビュー作「ガラスの靴」。戦時下での青春の挫折、軍隊での体験、戦後の日常生活、そして父母への想い…。「故郷」「サアカスの馬」「父の日記」等、戦後日本文学を代表する短篇小説の名手の秀作14篇を収録。
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本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
59
「老人」の待ち侘びていたかのように見栄を張る人に無意識に抱く一種の嫌悪感、「職業の秘密」は過去が呼び覚まされた事で現在の関係が逆転する心許なさやそれによって呼び起こされる屈辱の描写が生々しい。個人的に好きなのは「父の日記」。どうして結婚して子供を持とうと決めたのかが分からない夫婦の間に育った子供は「家族像」へ冷えた眼差しや諦念を抱かずにいられない。それを溶かしたのは、母に恋する気持ちを綴った日記だった。立派でもない癖に棚上げする、理解しがたい「親」ではなく、「個人」として接せられたら家族はもっと楽になる。2023/06/20
こうすけ
21
村上春樹が、戦後の日本の小説家のなかで一番文章がうまい、と語った安岡章太郎。その短編集が出たということで読んでみた。確かに読みやすい。ガラスの靴、放屁抄が良かったが、特に素晴らしかったのは、マルタの嘆き。夫が未練たらたらに語る元カノのことが気になり、その自宅に突撃してみたら、ウナギみたいな顔をした女だったという話。しかも、良家の出と聞いていたのに、実は魚屋だったことが判明。それでも、由緒正しい魚屋かもしれない、と望みを残す、夫のどうしようもなさも含めて面白い。2023/04/06
春ドーナツ
17
昔、「第三の新人」たちを俎上にのせた「若い読者のための短編小説案内」を読んだ。常に読書の幅を広げたいと願っているので、彼ら全員の作品にあたった。幾星霜。数年前から岩波文庫の新刊を読むことにしている。上記の本で安岡氏が紹介されていることを思い出した。この機会を逃すと、と案じて本書を紐解く。「若い読者」の著者は私小説アレルギーで、けれども、というスタンスのものだったので、本書で編まれた作品のほとんどが私小説だった為、ん、となる。「ガラスの靴」系の話が続くと先走っていたのですね。ここ片仮名表記か! 独特でした。2023/06/24
真琴
10
浮世離れした、米占領軍のハウスメイド悦子と、銃砲店夜警「僕」のひと夏を描いた「ガラスの靴」他13篇。安岡章太郎の文章は、あたたかさと人間味を感じる。時に笑ってしまう作品もあった。社会に息苦しさを抱いていたので、その心を中和してくれた。氏の長編も読みたい。2023/12/12
hirayama46
7
1950年代の作品を中心としつつ70年代の作品も収録されている安岡章太郎のセレクション短編集。安岡章太郎は数冊しか読んでいなかったので、初期の短編を読むのははじめてだったのですが、これはいいものですね……。戦争で満州まで出兵してギリギリで生存して帰ってきたのちに脊椎カリエスに悩まされて、平穏な暮らしではまったくなかったわけですが、そんななかでユーモアを持ち続けた作品の数々はしなやかな強靭さがあり、冴えない人間を描いても芯がありますね。素晴らしかったです。2024/03/28