出版社内容情報
日本の文化伝統のなかには「うつしの美学」がきわめて深い根拠をもって生きている。「うつし」とは「移し」。すなわち、あるものを別のものに成り入らせ、その動勢と調和に美を見出す精神の活動である。菅原道真の詩は、その「うつし」が生んだ、最もめざましい古代的実例であった。和歌の詩情を述志の漢詩に詠んだ詩人を論じる。(解説=蜂飼 耳)
内容説明
日本の文化伝統のなかには「うつしの美学」がきわめて深い根拠をもって生きている。「うつし」とは「移し」。すなわち、あるものを別のものに成り入らせ、その動勢と調和に美を見出す精神の活動である。菅原道真の詩は、その「うつし」が生んだ、最もめざましい古代的実例であった。和歌の詩情を述志の漢詩で詠んだ詩人を論じる。
目次
はじめに―「うつし」序説(写実主義はなぜ勝利しなかったか;「うつし」という言葉 ほか)
1 菅家のうつしは和から漢へ―修辞と直情 その一(菅原道真研究史;漢と和の統合 ほか)
2 修辞のこうべに直情やどる―修辞と直情 その二(「詩を吟ずることを勧めて、紀秀才に寄す」;「阿満を夢みる」 ほか)
3 詩人の神話と神話の解体―修辞と直情 その三(「寒早十首」;道真追放の理由 ほか)
4 古代モダニズムの内と外(詩人の達観;漢詩文から大和言葉文芸へ ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
89
大岡さんの30年近く前に出された菅原道真の書いた漢詩についての評論です。道真というと文人というよりも悲劇的な人物として有名ですが、大岡さんは「うつし」という観点から日本古来の和歌の観点からそれを漢詩に置き換えて自分の心を読んだ道真を論じています。この本の面白いところはさらに解説で蜂飼耳さんが大岡信論を書かれていることです。2021/03/12
わたなべよしお
19
いつ読んでもいいなあ、この筆致。大岡信さんのように書きたい、と思う。さて、本の方は菅原道真の詩人としての凄さと、日本の漢文学において頂点に達した道真だったが、死後はあっという間に大和言葉の文学、純国産の和歌が主流となる様を鮮やかに示す。この辺がまた実に刺激的だ。2024/09/11
崩紫サロメ
18
詩人としての菅原道真を「うつしの美学」という視点から描き出す。著者は日本文学の根底に「写し」「移し」を見出すが、ことに道真は引照し、導入した漢詩の断片が、彼の言わんとすることに一層深い意味の照り返しを与える方向で活かされ、統一しているという。彼の死後、日本の詩歌は中国詩の模倣というモダニズムから日本的ポストモダンの段階に至る。そうした意味で著者は道真を「古代日本における真正のモダニスト」と評価する。とても興味深い観点。2020/12/01
ロビン
14
詩人の大岡信が「学問の神様」菅原道真の詩人としての面に光を当て「うつし」という概念のもとで描き出した評論。道真公が讃岐に赴任した際に作った漢詩「寒早十首」を中心に、華やかな京都の宮廷時代や大宰府配流の苦衷を歌った詩まで、詩人ならではの濃やかな読解力をもって、寄り添うように読み解いていく。大岡は他著でも日本の詩歌の形式は漢詩のように「述志」を盛り込むには適しておらず、ゆえに政治的・社会的な詩が生まれ辛かったと書いていたが、これは日本詩歌の致命的な弱点のように思う。日本で詩人が惰弱な存在である遠因ではないか。2024/03/05
Tom
4
著者は詩人。生憎、詩に明るくないので詩の解説で意味はわかるが詩的な趣については「はあ」という感じ。菅原道真の詩といえば授業で習った「東風吹かば~」くらいしか知らなかったが、本書を読んで、道真が漢詩文の人なのだということがわかった。道真が讃岐に赴任した際に、民の貧苦を嘆いた「寒早十首」は白居易の「和春深」のオマージュで、元は遊び心に富んでいるが、こちらは暗く陰鬱な色が強い。これが「うつし」である。また蒼氓の貧苦、つまり国家と個人の衝突を主題に詩を詠んだのは山上憶良以来であるらしい。2023/09/12
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