出版社内容情報
日露戦後の思潮転換期に発表され,注目を引いた風葉の代表作.主人公は自我に目覚めた青年でありながら実行力を欠き,現実の問題の処理にあたっては無責任とエゴイズムに陥ってゆく――,作者(1875‐1926)は当時の社会的風潮を背景に近代的知識人の悲劇を美しい筆をもって描く.同時代の「魔風恋風」とならんで,明治文学に一時期を画した作品.解説=本間久雄
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みつ
5
「夏之巻」からさらに3年後を描く「秋之巻」。恋人同士の二人の間も「青春」から季節が移りゆく。風景描写も随分枯れてきて、子を喪った老夫婦の話など自然主義の匂いも感じさせる。「春」で漱石の「三四郎」にも登場するヘリオトロープの香水が香り(第10章)、「夏」で「海老茶式部」と揶揄されていた(第14章)のも過去のこととなり、事件を背負った夫婦として漱石の「門」のように地道に暮らしてゆくかと思いきや、最後に意外な展開を見せる。前2巻の幕切れは次の巻を期待させずにいられない切れ味があるが、この投げやりな終わりもよい。2021/01/11