出版社内容情報
作者は昭和初年に青春時代を送り,戦争に行き,戦後四○年,誠実な一生活者として生きた.詩歌の分野における最も優れた戦争文学『山西省』のほか,サラリーマン生活,家庭生活の歌も数多く残している.現代の生活者の孤独な自己凝視の歌は,静かな,しかし深い共感を呼ぶ.「毎日の勤務の中のをりふしに呆然とをるをわが秘密とす」
内容説明
濃やかな情愛と孤独な自己凝視―。戦後の代表的歌人宮柊二の全歌集から抜粋。作者は昭和初年に青春時代をおくり、苛酷な戦闘を体験し、戦後40年、誠実な一生活者として生きた。優れた戦争文学『山西省』のほか、サラリーマンの日常、家庭生活を詠い、生ある者への愛惜をこめた数多くの秀歌は人々の深い共感を呼ぶ。
目次
群鶏
山西省
小紺珠
晩夏
日本挽歌
多く夜の歌
藤棚の下の小室
独石馬
忘瓦亭の歌
緑金の森
純黄
白秋陶像
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
20
地下足袋に わが踏みゆけば いくさより 寂しき山の 落葉の音す(77頁)。見下しの 棚田の面に 浮苗は 片寄にりにけり 日本の平和(105頁)。右傾化するニッポンの将来を案じるよ。秋たちて 梔子(くちなし)の挿木 芽吹ききぬ 寂しいかな 秋に萌ゆといふこと(112頁)。人間を 大事にせざる 実験の 大き規模おもひ こころ激(たぎ)ち来(く)(125頁)。戦争の のちの平和を 喜びし ひとり心も 老い耄(ぼ)けにける(244頁)。 2015/10/04
やま
5
高校の時に、秋熱しと言う表現の解釈がわからずに覚えていた歌人の本。残念ながら問題の歌は見つからなかったが、短歌の表現に今更ながら驚く。言葉の使い方、毎日10首詠んで訓練したこと、戦争の歌など興味深く思った。高校の教科書に載っていたのはこれ「二人子はコーヒーを飲めば遁げゆけり秋熱き庭のただ恋しくて」。秋は初秋なのか中秋なのか晩秋なのかで国語の時間にそれこそ熱い議論をしたものだった。懐かしい。今読むとコーヒーを飲んで逃げる語感から中秋か?2017/04/23
のほほんなかえるさん
2
およそ50年に渡る短歌業。重く硬い初期から柔らかき後期まで。言葉がぎっしりきちっと詰められている。2012/04/04
日向夏(泉)
1
老いて病んでいく身をさまざまに読む。視力が落ちたり、リウマチで手が思うように動かなくなったり。誰もが行く道であるが、その日が来るまで、まるで無いことになっている日々のことを、静かに打たれながら読む。2019/12/30
剛田剛
1
宮柊二という歌人はどうしても最高峰の戦争文学たる「山西省」を中心に把握してしまいがちである。しかし、戦後の歌を「戦後の歌」として捉えるのは一面的に過ぎる。親の死、友人の死、自らの死、それらの手触りを歌う歌は新たに1頁を立てるべきものであって、決して「山西省 その後」ではない。彼が生涯かけて歌ったのは「死」であり、それに照らされている「生」であるとは言えまいか。2019/12/25