出版社内容情報
いまかいまかと怯えながら,来るべきものがいつまでも出現しないために,気配のみが極度に濃密に尖鋭化してゆく――このような生の不安と無気味な幻想におおわれた夢幻の世界を稀有の名文で紡ぎだした二つの短篇集を収める.漱石の「夢十夜」にも似た味わいをもつ百間(一八八九―一九七一)文学の粋. (解説 種村季弘)
内容説明
いまかいまかと怯えながら、来るべきものがいつまでも現われないために、気配のみが極度に濃密に尖鋭化してゆく―。生の不安と無気味な幻想におおわれた夢幻の世界を描きだした珠玉の短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Willie the Wildcat
93
花鳥風月な背景、そして対照的に描かれるヒトの持つ欲の表裏。時に滑稽に、時に背筋が寒くなるような幻想的世界。まず『件』。運命を受け入れつつ、自然の摂理からその運命に背く心底の葛藤と、結果辿り着く”静寂”。周囲の喧騒との対照性に、ヒトたる性の滑稽さも垣間見る。次に、『道連』の連れの”残り香”に哀愁。表題『冥途』も同様。最も想像を掻き立てられたのが『水鳥』。周囲の喧騒が、静寂となる変化。抗わない姿勢に垣間見る死生観。因みに、七変化する”風”と”黄色”の使い方を「静」とすると、「動」はもれなく”長”。逆さ?!2021/01/09
saga
54
『贋作吾輩は猫である』の解説で「冥途」の記述があり、積読だった本書に着手。本書の解説でも書かれているが、漱石『夢十夜』が思い出される。『冥途』は大正関東大震災が起こり、原稿の散逸もあったとのこと。その後10年を経て『旅順入城式』の作品群を上梓し、両作品群とも夢うつつの境界域の短編48編となった。百閒先生版の百物語と言えそうな、じっとり濡れたような怪異であった。2022/08/14
中玉ケビン砂糖
51
ものの本曰く「幻想じたての短編集の最高傑作。受身型人物の典型として怯える『私』の妙味」。「坂」は何度講義で精読させられたことか。レビューで散見される「遅々として読み進めず」「いつの間にか通り過ぎる感じ」という感覚はわかりすぎる程にわかる。2020/02/22
ハイカラ
42
夢のように曖昧で不安な短編小説集。いや、最高に面白かった。何気ない物事に潜む説明不能の恐怖が現れたり、日常が突然非日常に侵食されたり、そういう悪夢的な話はやっぱり良いもんだ。読んでいると心地よい不安に浸れる。話の中では『花火』『石畳』『白子』『冥途』『山高帽子』『影』『旅順入城式』『先行者』が特に好き。2016/04/16
メタボン
36
☆☆☆★ 続けて読むとお腹一杯で、すんなりと話に入っていけない。偶にポツポツと読むと、その妖しい世界・恐ろしさにじんわりと浸れる。だんだんと恐ろしくなってきて、いつの間にか取り返しのつかないところへ進んでいるというパターンの話が好きだ。「花火(いつの間にか過去に裏切った女の許へ)」「件(とんでもない予言をしてしまいそうな予感)」「流木(お金を拾って警察に届けようとしている間に泥棒にされてしまう)」「短夜(狐の正体を明かすつもりが赤ん坊を殺してしまう)」「(神経症的な)山高帽子」「(知人の妻の死)木蓮」 2020/03/26
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