出版社内容情報
「死と焔の記憶に よき祈よ こもれ」――「夏の花」で知られる原民喜が遺した詩は、悲しみと希望の静かな結晶である。(解説=若松英輔)
内容説明
「ヒロシマのデルタに/若葉うづまけ/死と焔の記憶に/よき祈よ/こもれ」―広島での原爆被災を描いた小説「夏の花」で知られる原民喜(1905‐51)はまた、生涯を詩人として生きた。生前に清書され、親友により没後すぐに刊行された『原民喜詩集』に加え、自身で編んだ「かげろふ断章」ほか拾遺詩篇を収録。現実と幻をともに見つめ、喪った者たちのために刻まれる詩は、悲しみと希望の静かな結晶である。
目次
原民喜詩集(ある時刻;小さな庭;画集;原爆小景;魔のひととき)
拾遺詩篇(詩集その1 かげろふ断章;千葉海岸の詩・海の小品)
1 ~ 4件/全4件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
130
小説「夏の花」で有名な原民喜の詩集。白眉はやはり「コレガ人間ナノデス」で始まる「原爆小景」だと思う。原爆の投下によってむごたらしく傷つけられた広島の街と人々を訥々した静かな語りで描いている。圧倒的に悲惨な現実に直面したら、絞り出すようにして、自分の中からこのような言葉を取り出すしかないのだろう。他の詩は細やかな感性を感じさせるものが多い。非常に控えめで優しい人だったようで、そのような詩人が原爆投下のような非人間的な出来事に巻き込まれて、創作を続けるのは、文字通り命を削るようなものだったに違いない。2015/07/24
藤月はな(灯れ松明の火)
71
葉の陰と光、星の輝き、芒を通る風、甘やかな雨の音、小鳥が空を飛んでいることなど、ささやかだけど世界が綺麗に見える一瞬を切り取った詩に思わず、出会ってきた光景や感覚と重ね合わせて微笑ましく、なる。しかし、『原爆小景』ではささやかな幸せから一変して凄惨な地獄を見ることになる。特に「水ヲ下サイ」からの「死ンダホウガマシデ」という絶望の呻きが苦しい。なぜ、原爆が落とされることでこのような懇願をさせる程の絶望が齎された上、人々のあったかもしれない未来が奪われなければ、ならなかったのか。なぜ、なぜ、なぜ!?2015/09/08
憲法記念日そっくりおじさん・寺9条
70
峠三吉の『原爆詩集』が好きなので、こちらも読んでみた。とは言うもののこの詩集の『原爆少景』は全体の一部に過ぎない。その他の詩は亡き妻を偲んだ詩だったりして、正直、私の琴線には全く触れなかった。残念な事である。しかしたまに詩集を読んだ時に感じるページの余白の美を久しぶりに感じられた点には満足した。カバーの内容紹介文にも引用されているが、『永遠のみどり』という詩の「ヒロシマのデルタに 若葉うづまけ 死と焔の記憶に よき祈よ こもれ」というのは素晴らしい。この「よき祈よ こもれ」がいい。素敵な表現を詩は教える。2016/09/25
aika
47
病床で、朝の空が見たいから雨戸を少し開けてほしいと言い、そうして逝った妻をひたぶるに謳う「小さな庭」。「嘗ておまへがそのやうに生きていたといふことだけで、私は既に報いられているのだあつた」この一文で、はりつめた悲しみにたったひとすじ差した光をこの目で見た気がしました。強いカタカナまじりの「原爆小景」では、死ンダハウガマシ、タスケテと繰り返される被爆した人々の生き地獄の叫びには言葉を失います。巻末の年譜を読んで、これほど苦悩しつづけた人生から、こんなに美しく繊細なものが生まれたことへの感慨に満たされました。2020/09/24
スプーン
46
自然に感動する心も、奥さんとの生活も、生まれながらの不安感も、すべてが詩の中に溶け込んでいるかの様な詩人である。どこか原爆を予感していたような節があり、運命のやるせなさを感じる。2019/04/22
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