出版社内容情報
勝敗を決するものは,人知の限りを尽くした人力と,いま1つは人力を超えたなにものかの力-『平家物語』を題材に緊密に組立てられ,高い評価を受けた代表作「子午線の祀り」に,「沖縄」「龍が見える時」を併収.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
51
人知を超えた自然に翻弄される者たちを描いた『子午線の祀り』では、潮の流れの変化が平家滅亡のきっかけとなった壇ノ浦の合戦での源平両者の心理が巧みに描かれている。この戦いでは自然を味方につけた義経が、最後にはあらゆる者から見放されていく、その無常さ。沖縄の自立を考える『沖縄』。2024/06/28
syaori
49
非情の天と、たまゆらの間に輝きを放つ人間の有情とを天と地の間から見つめるような『子午線の祀り』や、群読のうねりを感じる『龍が見える時』もよいですが、戦争の記憶もまだ生々しい沖縄を舞台に、本土と沖縄の確執や米国との関係を浮き彫りにした『沖縄』が強く心に残りました。沖縄の地を踏むことなく観念のみで組み立てたという作品は、確かに不細工なのかもしれませんが、不思議に訴えるものを感じます。またそれゆえに、秀の「あなたがしなければならないこと」から続くセリフは、今なお時代や国を越えて響いているのではないでしょうか。2018/01/05
彩菜
31
舞台は四国屋島の海。壇之浦に繋がるその海に平知盛が落ちのびてくる。都落ち、負け戦、海を漂う日々…全てが今、起きる筈であった事が起こってしまった…そのように、この海の潮の流れのように抗い難い運命として彼には感じられており、その中で耐え抜こうとしながらどうしようもなく呑み込まれてゆくまでが描かれる。効果を発揮するのが「人々」と呼ばれる群読で、木下はこれを人の営みと関わりなく正確に月に従う海の満ち干と潮流という宇宙的広がりに重ね合わせる。その力強さは知盛を襲う運命の圧倒的な渦となって舞台の上に顕れた事だろう2025/02/17
イリエ
18
平家物語のクライマックスを描いた戯曲。普通の平家物語プラス「読み手」が醸し出す空気感。何より、タイトルがいいですね。正直、言い回しは少し難しいです。けれど、入ってくるんですね。日本人が好きな言葉のリズム感を計算されているからかも。2021/02/27
不識庵
16
『子午線の祀り』は、平家物語登場の平知盛が主人公。壇浦の合戦に焦点を当てた戯曲である。海の描写が秀逸。滅びゆく一門を支える知盛の心の機微も、よく伝わってくる。『沖縄』はまだ日本返還前の沖縄を舞台にする。木下は当事、現地取材をしないで書いたそうだが、現在でも示唆に富む作品である。リアルな沖縄に触れた思いがした。2018/03/02