出版社内容情報
敗戦直後の荒廃した世情のなかで,深い倦怠と疲労に自身の老いを自覚する信吾.老妻や息子夫婦と起居をともにしながら孤独を感じさせられる家庭にあって,外に女をもつ長男の嫁菊子に対する信吾の哀憐の情は,いつしかほのかな恋にも似た感情に変わってゆく.その微妙な心のひだをとらえた戦後川端文学の傑作. (解説 中村光夫)
内容説明
敗戦直後の荒廃した世情のなかで、深い倦怠と疲労に自身の老いを自覚する信吾。老妻や息子夫婦と起居をともにしながら孤独を感じさせられる家庭にあって、外に女をもつ長男の嫁菊子に対する信吾の哀憐の情は、いつしかほのかな恋にも似た感情に変わってゆく。その微妙な心のひだをとらえた戦後川端文学の傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
58
この作品が後期川端文学の象徴のように思えて仕方ない。2018/02/14
salvia
8
倉橋由美子が自著で「家庭生活の美しい絵巻物に見せかけた老いと愛の恐ろしい世界」「死の匂いのする変態」と紹介していたので読むことに。確かに、時代の影響もあるだろうが、なんとも奇妙な家族の物語だった。老境に入った主人公の心の声はあからさまで、息子の嫁(曲者)を愛でる際の言葉は美しく、一方で妻・娘・孫娘の醜さへの表現は辛辣。とにかく美醜にこだわる。言わずもがなの抒情詩的散文とともに、ちょっと癖になる変態だった。次は『眠れる美女』に進みたい。2021/06/09
Holden Caulfield
4
川端作品の中でも最高傑作と評価される一作、 ノーベルウィークだったので再読したが、まさに「美しい日本の言葉」に酔いしれる、 余談だが、次に読む予定のカズオ・イシグロ「日の名残り」の解説で、 イシグロは、川端康成よりもディケンズを師事している事を知る、 今年のノーベル文学賞は、 「無事」ボブディランが受賞した、 めでたしめでたし、2016/10/14
カヒミ
3
終戦後の占領時代の1家族の話。舅と若い嫁が軸。終戦後の占領時代の絶望感が根底に流れ、それはもう「あからさまな幸せ」など無いのだと言っているかのようだ。特にぶっとんだエピソードなど書かれていないのに面白い。流石だと思った。2016/05/04
Rusty
3
すごく面白い。いや、別に話の内容はそう変わったこともないのだが、時代性や登場人物の感情の機微(空気感というか、手触りというか、直接的ではないのだけどしっかりと感じられるもの)がよく伝わってくる。よくというか、直接的に示されないにも関わらず、大きな存在感を持っていることが感じられる。それと、本の中身はすごく日本らしさであふれている(ように私は感じる)のだが、これが世界的に評価されているらしいということが、とても嬉しい。日本人としての誇りだとかいうことではなく、文学の、人間の感性の、普遍性を感じて。2015/08/15