出版社内容情報
ここは東京随一の貧民窟。印刷工場の労働者がひしめき暮らす。ある日会社が行った首切りは三千名のストライキに発展。「太陽のない街」の住民たちも闘いの渦に巻き込まれていく。実体験に基づくプロレタリア文学の代表的作品。改版。(解説=鎌田慧)
内容説明
ここは東京随一の貧民窟。印刷工場の労働者がひしめき暮らす。ある日工場が行った首切りは大争議に発展。「太陽のない街」の住民たちも苛烈な闘いの渦に巻き込まれていく。実際の争議の中心にいた作者(1899‐1958)が、労働者の言葉をもって読ませることを第一条件として描く、プロレタリア文学の代表的作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
118
1926年の三大争議のひとつが背景。作者は当事者の1人。ルポルタージュ作家としてジョージ・オーウェルと同時代人。お寺にある「極楽と地獄」の絵が貧しい人々が犯罪を起こす抑止になっていたのだろうか。印刷会社の社長に、とうとう増上寺の大僧正が説きに行ったなど仏教はすぐ隣にあったのだと思う。ストをに入る前に作者が感じていた嫌な予感…、なるほど、だから客観的視線も加えて彼はこれを書けたのだな。谷とは、そこに作られる集落とは、こんなであったのか。争議のあった時代、芥川は或る阿呆の一生を書いていた。その頃のこと。2022/01/30
ω
52
蟹工船をこよなく愛する私としましては、いつか読まなければという気持ちだったω 全部読んだけど内容が全然入ってこなかった。にゃはは😹2022/02/26
川越読書旅団
28
印刷工徳田直(すなお)が実際に参加した共同印刷会社の大ストライキに基づいて書かれた所謂プロレタリア文学作品。資料や言伝を元に描かれた多喜二の「蟹工船」とは違い、徳田直本人が体験した労使抗争だけに、当時の状況がビビットにまた精細に描かれており非常に学びになる。2023/12/02
のり
11
1929年に雑誌『戦旗』に連載された。同誌に発表された小林多喜二「一九二八年三月十五日」に触発されたと作者は自注している。作品は一九二六年に実際に東京小石川の共同印刷で行われた労働争議をモデルにしており、この争議は「日本三大争議」に数えられるほどの大きなものだった。冒険活劇もののような通俗的な語られ方は作者自身が講談ものに慣れ親しんでいた影響もあるが、なにより「労働者に読ませる」ことを目的の主眼にしていたためだという。登場人物の多様さとスケールの大きさ、メロドラマ的要素も絡めつつ、結びは敗北の悲哀(→)2019/02/06
Nemorální lid
8
『まず読ませよ、労働者の眼を、活字の上に吸いとれ!』(解説 p.363)という目標を置いた著者は、仕事を終えて疲弊した労働者達にも読めるような新感覚派的筆致を目指した。故にスピード感溢れるものになっており、全速力で描かれる瞬間が絶え間なく続く。実際の労働争議を描いた当著の中に横たわるブルジョワとプロレタリア、"陽のあたる場所"と"陽のあたらない場所"の二項対立は決して現代も無くなった訳では無い。『ストライキはいまや死語である』(解説 p.380)とあるが、今だからこそ我々は声を上げるべきなのかもしれない。2018/07/29