出版社内容情報
「広い人間の生活を知りたい」という近代女性佐々伸子の恋愛と結婚からその破綻にいたるまでの経過を描く.彼女はその出身の上層中産階級から大胆にプロレタリア階級の味方に転換し,人間的成長をとげてゆく.近代市民文学の正統を受け継ぎつつ新しい時代への架橋を目ざした百合子の代表作.大正13‐15年作.解説=蔵原惟人
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
S.Mori
9
下巻では、伸子と佃の間の溝が深まって、修復できないところまでいきます。辛く、重たい雰囲気が全体を覆っており、お世辞にも心が弾む作品とは言えません。それにしても夫婦の仲はいったん亀裂が入ると、取り返しがつかなくなるものであることが分かります。相手のために良かれと思ってしたことが、かえって相手を怒らせることもあるようです。伸子の描写には作者である宮本百合子の生き方が反映されているのでしょう。作家として生き抜いた宮本百合子は、家庭に入って普通の主婦として暮らすには、器が大きすぎたのかもしれません。2019/09/29