出版社内容情報
一九○九年,単身本郷の下宿に移り住んだ啄木はローマ字で日記を綴り始める.若く清新な芸術家たちとの交わり,飽くことのない真理への献身,来信に触発され燃え上る想い,また一転して私娼窟に沈む日々,脳裏を重くよぎる妻のこと子のこと.生活全般を覆う貧乏,閉塞の時代にも腐蝕せぬ青春の輝きを,ローマ字は記録する.
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
gtn
20
妻子に送るべき前借金で十七のハナコを買う啄木。壁は黒く、畳は腐り、屋根裏の見える部屋の中で、ハナコの温かさ、柔らかさに縹渺とした心地になる。愛する妻子を一日も早く東京に呼び寄せたいと願う一方で、閉塞感から逃れたいという思いも真実だったのだろう。啄木の念いは実現する。この三年後二十六にして縹渺たる世に旅立ってしまった。2020/02/11
三柴ゆよし
19
すごくおもしろい。朝に書いたことを夜にひっくりかえし、悪所通いの記録を赤裸々に、露悪的に書きつける、これは明らかに未来の読者を想定した日記であり、もしかしたら小説の習作だったのかもしれない。当時の文学青年の例にもれず、いろんな思想にかぶれていたらしいが、そのどれをも真剣に信奉しているようにはみえず、むしろそうした新思想、新哲学に容易くまいってしまう同時代の軽薄さを鼻で笑っている感がある。が、全頁に横溢する「なにもできないおのれこそ、だれよりも無価値だ」という意識が他者を嘲る自身をもまた相対化している。2020/08/13
メタボン
15
☆☆ 借金しまくり、給料は前借りのうえ、もらった数日のうちに使い切ってしまうという生活破綻者としての姿が赤裸々に描かれている。生活のどん底にあるのに、料亭に行ったり、女を買ったりするなよ、まして友人の時計を質に入れたり、大事な北原白秋の詩集を売りとばしての放蕩三昧か、と心底あきれはてる。しかし恐ろしいのは、こんなどうしようもない人間から生まれてくる短歌は綺羅星のごとき輝きを放っているということであり、「文学」のすさまじさを感じた。 2014/12/21
よっし~
8
「夏の虫は火にまよって飛び込んで死ぬ.この人たちも都会というものに幻惑されて何も知らずに飛びこんできた人たちだ:やがて焼け死ぬか逃げ出すか、ふたつにひとつはまぬかれまい」近代日記文学の傑作とも呼ばれる石川啄木の日記。上京した17歳から27歳で死去する直前までの日々を「ローマ字」で綴る。「日誌」が人に読まれる前提であるのに対し「日記」は誰にも見せない書き物である。当時は読み難い「ローマ字」で、乱倫、浪費、倦怠、放恣、嫉妬、悔恨が赤裸々に刻まれている。日本語表記付。2020/02/19
じょうき
8
他人の日記を覗き見する、出歯亀的な気持ちで読み始めたのだが、何とも複雑な気持ちにさせられた。破天荒な生活がクローズアップされがちだが、まるで小説を読んでいるような文章だった。描かれているのは貧困の中にある限りない自意識であり、現実を前にもがき苦しむ若者の姿だ。その生活が実在したことを知っているから、なお胸に迫るものがある。解説を読むとなおその人生に哀切を感じる。 ラフな感想を追記すれば、実際自分の側にいたらきっと引いてしまうダメ人間ぶりであり、金田一氏の友情にはただ脱帽するばかりだ。2018/06/05
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