出版社内容情報
有島武郎(一八七八―一九二三)が生前に残した創作集は『一房の葡萄』ただ一冊である.挿絵と装丁を自ら手がけ,早く母を失った三人の愛児への献辞とともに表題作ほか三篇が収めてある.童話とはいうものの,人生の真実が明暗ともに容赦なく書きこまれており,有島ならではの作となっている.他に「火事とポチ」を加えた. (解説 中野孝次)
内容説明
有島武郎が生前に残した創作集は『一房の葡萄』ただ一冊である。挿絵と装丁を自ら手がけ、早く母を失った3人の愛児への献辞とともに表題作ほか3篇の童話が収めてある。童話とはいうものの、人生の真実が明暗ともに容赦なく書きこまれており、有島ならではの作となっている。ほかに「火事とポチ」を加えた。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ehirano1
82
表題作について。残酷な内容ながらもこれは美しい、ホントに美しい。そして、先生の能力に何より驚かさせれます。このような先生が今も教育現場に少なからず居ることを心から願いました。2023/10/06
Willie the Wildcat
79
犯罪や事故死にも繋がりかねない苦い実体験を通した気づきと教訓、それらの思い出の数々。根底の欲、利己、そして羞恥心への気づきが成長の第一歩。『一房の葡萄』は”育む心”、『おぼれかけた兄弟』と『碁石を飲んだ八っちゃん』は”生命”、『燕と王子』は”慈愛”。読後感じた共通項が、音信不通。気付いた時には連絡が取れず、感謝の念を伝える機会を喪失。形ではなく心、ここに著者の思いや願いを感じる。中でも印象的なのが『燕と王子』での、街に響き渡る王子の鐘の音。日々、心に染みわたったはず。2019/05/15
えみ
63
嘘偽りのない心を赤裸々に描き切っている童話集。童話と言えば本来は子供のため…という目的で書かれている。だから主人公は必然的に、親が子供に聞かせたい真っすぐで人を思いやり、自己犠牲も厭わないような美しく澄んだ心を持つ、道徳の手本となるような者を登場させることで童話の体を成す。それを覆したのが有島武郎その人である。彼も例に漏れず、自殺をした短命の作家である。彼が描く童話は、人間の暗い感情まで見事に伝えきっている。絶望や嫉妬、容赦ない現実。子供だからこそ目を背けて欲しくない、有島はそう思ったのかもしれない。2023/06/11
えみ
60
一房の葡萄のみ再読。小説の終盤の畳み掛けるような美しい表現がふっと思い浮かんで何とも言えない気持ちになったので、もう一度読み返す。やはり憧れの人の優しさとこれ以上ないというパーフェクトな対応、大人の余裕、全てをひっくるめて受けた印象…そのものが表現されて浮かんできたものが、美しい手。そして一房の葡萄。やっぱり読み返しても最高の表現だなって思う。罪の意識が見せるその一片の切り取られた記憶の思い出が深く伝わってくる。迷った末に犯した間違い、そして罪の意識と後悔。子どもだからこそ強いメッセージ性ある物語になる。2023/08/17
ちくわ
32
たまには日本の古典でも…と探索して手にした小説であるが、10分で読了した読者メーター登録中最薄の本である。 自分も小学校4年の頃、母子家庭の子に文房具を盗まれてクラスで大騒ぎになった経験がある。後でその子と母親が謝りに来られたが、その際ジムのように『無条件で無邪気に』許してあげた記憶が無く、それ以来彼とは疎遠になった。その文房具は欲しいと言われたら気軽にプレゼントしちゃう程度の物だったのだが。 人に優しくされると心底嬉しい…だからこそ自分は人に優しくなりたい。相手の喜ぶ顔を見ると自分も嬉しくなるよね。2023/12/29