出版社内容情報
詩人としての独歩と散文家としての独歩とが最も鋭く対比される八つの短篇.ワーズワース的な田園抒情詩ともいうべき『少年の悲哀』『春の鳥』,現実凝視の素描的作品『窮死』『疲労』,そして『号外』『二老人』における諧謔と機知の世界への回避.『湯が原より』『あの時分』における現実と夢との調和. (解説 塩田良平)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
115
国木田独歩後期の短編集。『武蔵野』のような自然に目を向けた作品を少なく、社会とそこに住む人間に、真摯な眼差しを向けた短編が並んでいる。冒頭の「窮死」は、若い貧しい労働者が自殺してしまう物語で、国木田独歩のリアリストとしての一面がよく分かる作品。明治時代の影の部分を描こうとする姿勢に、作家としての良心を感じた。「春の鳥」が一番好きな短編で、薄幸の少年を包み込むような温かさで描いている。悲惨な死に方をする少年を「春の鳥」と表現する優しい詩的な感性が好きだ。2015/08/03
壱萬参仟縁
21
「少年の悲哀」で、僕は野山を駆け暮らして、わが幸福なる七年を送った。叔父の家は丘のふもとにあり、近郊には樹林多く、川あり泉あり池あり、そしてほど遠からぬ所に瀬戸内内海の入江がある(35頁)。光景が目に浮かぶようだ。これが美しい日本だと思うが、現状では汚染水垂れ流し。「湯が原より」で、恋は力である、人の抵抗することのできない力である。この力を認識せず、おさえうると思う人は、まだこの力に触れなかった人である(66頁)。恋は盲目。本書は独歩30代の頃の作品という(解説93頁)。 2015/10/16
Y2K☮
10
衝動買い。最初の数編は意外にもプロレタリア系。「窮死」は救いがまるで無い。重いはずの命のあまりの軽さに絶句。でもそういう理不尽な暴力に踏み潰される蟻の様な人生もある。やりきれない。誰もが見ないふりをしたがるテーマをあえて正面から扱う事も文学の使命なのか。「窮死」と「春の鳥」のラストの一行は余韻の残し方に井伏鱒二「山椒魚」に近いものを感じた。「少年の悲哀」もいい。一瞬の邂逅と死ぬわけでもないのに今生の別れというコラボが切ない。後ろの四編はあまり心に響かなかった。この一冊だけでは国木田独歩の色はまだ見えない。2014/12/11
葛西狂蔵
3
近代日本文学の創世期の作家による短篇集。個人的に独歩には鷗外や二葉亭よりも初期の文学と云う印象が強い。同時代の作家達と比較しても、独歩の作品は不思議と読み易く判り易い。悪く言えばシンプルで工夫がない。しかし良く言えば必要にして充分、だとも言える。多分、俺は独歩にベーシックな小説のあり方を見ているのだろう。巧いとは云いかねるが、何故か魅力的な不思議な作家。2015/09/12
おいぬ
1
すきな国語の先生からかりました 2020/08/23
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