出版社内容情報
長篇の合い間をぬうようにして書かれた小品とよばれる一群の短篇がある.小品とはいうが,しかしその存在は大きく,戦後の新しい漱石論は『夢十夜』の読み直しからはじまったと言っても過言ではあるまい.ここには荒涼たる孤独に生きた作家漱石の最暗部が濃密に形象化されている.『文鳥』『永日小品』を併収. (解説 阿部 昭)
内容説明
漱石には小品とよばれる一群の短篇がある。小品とはいうがその存在は大きく、戦後の漱石論は『夢十夜』の読み直しから始まったとさえ言われる。ここには荒涼たる孤独に生きた漱石の最暗部が濃密に形象化されている。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
454
いつものことながら、第一夜が終わったところで、早くも呆然自失の体。こんなに短い掌編でありながら、それが内包する時間と空間の大きさは大長編にも匹敵するだろう。しかも、この妖艶な美しさには幻惑されるばかり。十夜のいずれも捨てがたいが、第三夜の凍りつく様な怖さ、そして第七夜の奈落の果てを覗き見る恐怖の深さが、とりわけ傑出しているように思う。いやいや揚句の第十夜の軽みもまた捨てがたいか。いずれにせよ、本書は日本文学史上、『雨月物語』と並んで最高度の結晶化を示した幻想文学の白眉であることは論を待たないであろう。2016/05/24
ねこ
151
漱石の夢十夜。「こんな夢を見た」で始まる漱石の内面を垣間見れる10の夢物語。樫の木の中に仁王が埋まってるから運慶のように掘り出したいが彫っても彫っても運悪く居なかった…。など夢を文章化し書籍にしてしまうとは!まぁ創作であるとする意見もあるようですが…「文鳥」はなんだか切ない。女性と重ねる辺りが秀逸ですね。「永日古品」は漱石が生きた明治の始め頃の生活感が瞼の裏に浮かび、空気感まで再現され不思議な感覚に囚われました。夏目漱石という文豪を身近に感じる事ができた一冊です。2023/06/12
ムッネニーク
147
32冊目『夢十夜 他二篇』(夏目漱石 著、1986年3月、岩波書店) 「小品」と称される、漱石の短編作品を集めた文庫本。表題作の他、「文鳥」と「永日小品」という作品が収録されている。表題作は、10本の短い短編からなる連作である。胸を締め付けるほどロマンチックな「第一夜」、背筋も凍るほど恐ろしい「第三夜」、コメディとトラジェディが見事に同居している「第十夜」など、バラエティに富んだ短編が揃っている。夢と現の境目がわからなくなるような、独特の読後感に痺れる。漱石ビギナーにも易しい一冊。 「こんな夢を見た。」2022/05/18
新地学@児童書病発動中
136
今度再読して一番心に響いたのは『永日小品』の「火鉢」。文豪ではなく、生活者として漱石が浮かび上がってくる。子供の病気や金銭の無心、自分の仕事、体の不調といった厄介ごとの只中で、ほっと一息ついた時に、漱石の目にうつる火鉢の火の温かさ。そのぬくみを確かに私も感じるとることができた。本当の幸せは案外このように、ささやかな物の中にあるのかもしれない。芸術の世界に完全に行ってしまわずに、普通の生活者としての視点を失わなかったところに、夏目漱石の偉大さがある。2016/09/21
KAZOO
116
夏目漱石の短編集と随筆が3作収められています。「夢十夜」は何度も読んでいて、第一夜、三夜、十夜が印象に残っています。とくに第三夜は様々なアンソロジーにも収められていて本当に不気味な感じがします。随筆の「文鳥」は鈴木三重吉から飼いなさいと言われて飼ったものの家人の不注意(自分のもあると思うのですが)からいなくなってしまいまう。「永日小品」は随筆ながら本当に細かいことまでを書いている感じがします。阿部昭さんの解説が非常に印象に残りました。2022/08/25