出版社内容情報
アララギの歌人左千夫の創作集.恋の悲哀を知らぬ人には恋の味は話せない,と文中作者が言っているように,処女作『野菊の墓』に始まる農村の若き男女の恋物語は,その後日譚を男と女の側より描いた『春の潮』『隣の嫁』とともに一途な純情にあふれた美しくも悲しい物語である.他に『水籠』『告げびと』を付す. (解説 宇野浩二)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
58
「野菊の墓」のみ読了。主人公は、矢切の渡しの千葉側、松戸の豪農の地元の学校を卒業したての15才の次男坊。主人公の母親が病弱だったため、親戚の民子が母親の看護や家事の手伝いのため住み込んでいる。母親は、親戚ということもあり娘のようにかわいがっていたが、民子が主人公に思いを寄せていることがあからさまになってきたために、さまざまな支障が出てくる。純愛とはこういうものだ、という典型のような話。ただ、民子が死んだあと、母親がそんなにも自責の念にかられるものだろうかと、作為的なものを感じた。2022/11/15
カ
21
表題作の「野菊の墓」なんとまぁ、切なく悲しい恋愛物語か。「恋の悲哀を知らぬ人には恋の味は話せない」と作者が言う処女作。2014/08/06
SOHSA
19
「野菊の墓」「水籠」「隣の嫁」「春の潮」「告げびと」の5篇からなる短編集。表題作「野菊の墓」はもう数えきれないほど繰り返し読んだ。素朴で、決して美麗上手でない文章はそうであるからこそ心に染み渡る。日本の純愛小説の原点はやはりここにあるような気がする。「野菊の墓」以外では「春の潮」が秀逸。私自身が現在、九十九里に居を構えていることもあり、作中の風景が目に浮かんでくる。物語のとおり、いつの時代もなかなか思うようにはいかないものだ。2013/09/26
michel
18
★3.7。冒頭ーー後の月という時分が来ると、どうも思わずには居られない。幼ない訳とは思うが何分にも忘れることが出来ない。もう十年余も過去った昔のことだからーー人目をはばからぬ全力的な涕涙を誘う、これぞまさに"悲恋小説"。斎藤茂吉の見解にあるように、一途で純情で朴訥とした、田舎臭くて垢抜けしない作者の人柄が飾らず表れているゆえに、読者を引きつける。「春の潮」四章の末部にーー恋の悲しみん知らぬ人には恋の味は話せない。ーーとある。とてもピュア。皆、いくら歳を重ねても、やはりピュアな心は消えることはない。2020/06/07
❁Lei❁
15
牛飼いをしながら文学創作を行なっていた伊藤左千夫。のどかな田園風景と、そこで営まれるままならない人間関係が描かれています。田園での生活は和やかなようでいて、規律や習慣には厳しく、自由な恋愛などはとうてい許されません。少年少女の悲恋を描いた「野菊の墓」は、お互いの恋心を確かめあうシーンがいじらしく、その悲しい結末には何度読んでも胸を締めつけられます。家の体裁や親への義理と、どうにも止められない素直な恋心。相反する事情に引き裂かれる恋人たちを描いた作品群からは、農村の因習を払拭しようとする心持ちを感じました。2025/11/18




