出版社内容情報
「河内屋」は4人の男女をめぐる家庭の葛藤をあつかった作品で,特にその心理描写や,性格描写は精妙をきわめ,心理小説の逸品と称せられる.また「黒蜴蜒」は残忍な舅に虐げられる嫁の悲惨な運命を描き出した作者独特の悲惨小説で,明治文学史上紅葉の写実小説,露伴の浪漫小説と並び称せられるもの.解説=本間久雄
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
月
11
★★★★★(広津柳浪1861~1928年。広津和郎の父。深刻小説。広津和郎の小説に登場する父の姿が魅力的なので手を伸ばす。「河内屋」「黒蜴蜒」「骨ぬすみ」の3篇収録。3篇とも悲劇的な結末だが、何か人間の大事な部分、普段は手の届かない(気付かない)ほど暗い奥へ、その暗く深い部分へ何かを残していくような作品である。決して後味の良いものではないはずなのに、人間の儚さやものの哀れといった心の深層部へ、そこにある箪笥の引出しにそっと石を置いて来られる・・そんな感じがする。物語の構成力や文体にもとても味がある。) 2013/06/28
ハチアカデミー
7
A 横光「機械」並のこんがらがった人間関係で四角関係を描く「河内屋」が頗る秀逸。重吉はお染の旦那で、お弓が浮気相手で、清二郎の兄。お染は重吉の元許嫁お久の妹で、清二郎の元許嫁。お弓は重吉の浮気相手だが、実は清二郎のことが好きで、でも清二郎はお弓に興味はなく、お染のことを今でも好いている。それぞれの思惑がこんがらがり、かつ時に饒舌に己の心境を告白する。一見善人に見える清二郎もお弓から見れば連れない男… その複雑さと語りが古さを感じさせない。悲惨小説と呼ばれた「黒蜥蜴」は小栗虫太郎「白蟻」並の不気味さである。2012/06/23
ymazda1
6
「悲惨小説」「深刻小説」というジャンルが存在していたことを知って、気になって読んでみた・・・妻を自宅に軟禁して妾を引き入れる「河内屋」の夫、息子の少ない稼ぎで飲んだくれ、酒代が減るからと結婚を許さない「黒蜴蜒」の父親・・・こんなのと主人公を絡ませれば、悲惨にも深刻にもなるでしょって感じの三面記事みたいな小説だった・・・もう一篇の「骨ぬすみ」は悲惨深刻でないフツーな小説らしいけど、読み手が主人公の親友に感じるであろう小さな違和感が伏線になってて、この時代によくこんなプロットを作れたなって、ちょっとビックリ♪
歩月るな
4
ああ、何とも暗い結末の小説群、だから素敵だ。そんなだけれども、声に出して読みたい感じがする文章でもある。作者の「一体作家に詩境人物が一定すると云ふことは、作家の影が作にあらはれる場合にのみ云ひ得ることゝ思ふ。自分の考では、作家の影がいづれの作にも附いて廻はるやうでは、種々雑多の人物を活現することは到底出来まいか、とおもつたのです」との言、ああ、これは良い言葉に思える。これについては確かに色々考えさせられるなあと。おススメはしにくいけどお話としての価値はかなりのもの。2014/02/25
Porco
2
旧漢字に歴史的仮名遣いで読むのも辛ければ、話もお辛い。2022/01/15