出版社内容情報
アンデルセンが憧れの国イタリアを舞台にくりひろげた愛の物語『即興詩人』は,鴎外の格調高い文章によって紹介されて以来,広く人々の心を捉えつづけてきた.翻訳文学の傑作であり,明治文学史上記念すべき作品である.荘重華麗な訳文を音読によって味わえるよう難読語には徹底して振り仮名をほどこした. (校訂 川口 朗)
内容説明
ナポリで即興詩の才能を顕わしたアントニオはヴェネチアへ。原作以上とたたえられる優雅で洗練された訳文は、ひろく愛読された。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
24
1834年初出。今の我は断えず書(ふみ)を読み、自然と人間とを観察し、又自ら我心を顧みて己の長短利病(りへい)を審(つま びらか)にせんとせり(131頁)。妄想(もうざう165頁)。水の都:ヱネチア(171頁)。世界第一の富強者と云ひしエネチア(173頁)。 地名など、==線が付されている。解説:イタリアを舞台とする恋物語(267頁)。 2015/04/18
ぱせり
9
文語と19世紀ヨーロッパの出会いは、「雅」という一文字がなんて似合うんだろう。物語、というよりも、絢爛豪華な夢を見たような味わい。森鴎外の文章で読めたことに感謝したいと思います。文語読みの怪しい私を励まし助けてくれた『口語訳 即興詩人』(安野光雅)に感謝です。 2013/03/15
モリータ
8
◆後半の主な舞台、ナポリとヴェネツィアの描写は鮮やか。しかしそこで起こるドラマはご都合主義的(××が来て吹っ飛ばされた先が○○で…なんて…)。あとローマに帰ってきてから憂鬱タイムが続くのは辛かった(過ぎた女性たちを思い出してウジウジするのは後編ずっと)。小説としてのイマイチさは川口朗の巻末解説でも(コメ引用)。◆しかし風景に対する登場人物=著者の感慨を述べた部分は翻訳の妙もあって惹きつけられる。解説によれば、鷗外が「しちくどいまでに凝った文章」への訳法は加筆、省略・圧縮、書き換えを駆使しているという。2022/03/28
迦陵頻之急
1
義理と因縁と主従関係に覆われた江戸文芸と、空想や情緒を排した明治の自然主義文学が取り落とした、生きる喜びを描いた翻訳小説。背景となるイタリアの風土の書き込みが命で、雅味溢れる彫琢の訳文が書価を高める。ただし、まあ、ストーリーも人物も陳腐と言えば陳腐なので、何人も登場する遊び人の友人達は似たような連中ばかりだし、二人のヒロインとの関係の描き方も通り一遍。個人的に一番印象に残ったのは、「神曲」を秘かに手に入れて読みふける男版更級日記みたいな場面だった。2023/11/28
空飛び猫
1
アヌンチヤタとの再会。 愛する人との邂逅。 女に振り回される、アントニオの青春。2012/08/21