出版社内容情報
小説を書くために、まず小説とは何かを知らなければならなかった時代。戯作に親しみ西洋文学を渉猟した若き逍遥(1859-1935)が世に問うた、日本近代文学の黎明に名を刻む小説論。初期評論5篇を併録。
注・解説=宗像和重
内容説明
「小説の主脳は人情なり、世態風俗これに次ぐ」小説を書くために、まず小説とは何かを知らなければならなかった時代。江戸戯作に親しみ西洋文学を渉猟した若き文学士逍遥(1859‐1935)が明治の世に問うた、日本近代文学史の黎明に名を刻む最初の体系的文学論。他に、初期評論5篇を収録。
目次
小説神髄
小説文体
開巻悲憤 慨世士伝はしがき
詩歌の改良
小説神髄拾遺
小説を論じて書生形気の主意に及ぶ
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
lily
134
小説は美術なり、文は思想の機械(どうぐ)なりと日本に真価を発揮したのは逍遥の本書の力量なり。そうでなければ、明治以後あれだけの高等文士は誕生しなかったかもしれないのだ。小説を愛する者への日本初の本格的ラブレターだった。「直接に、あらわれた人情に共感することによって、人間が完成されてゆくものである」と。当にその高貴な人情に触れたいが為に100%の聴き役に徹した時間を膨大に費やすのだ。2019/08/07
ykmmr (^_^)
129
『物語』ではなく、有名すぎる『小説理論』。小説の『原理』と『技法』の2部構成とし、原理としては、登場人物や世相をありのままに、『勧善懲悪』を諭す事はなくすこと。が上巻に。下巻は『文語』と『口語』の違いなどが書かれているが、これが今に至るまで難しい事は、自分の読書で『実感』させられてばかりである。この評論に満足しなかったある人が、同時期に書かれた逍遥代表作の、『当世書生気質』に対抗して『浮雲』を書いたらしいが、どちらにしろ、この評論が『近代文学』の先駆けだし、『浮雲』を書いた人だって影響を受けている。2022/10/10
molysk
62
小説神髄は、坪内逍遥による小説論。「小説」をノベルの訳語とした逍遥が、その本質――すなわち、神髄を問うたのが本書である。上巻で小説の原理を、下巻で小説の技法を、それぞれ論ずる。小説は、美術の中でも随一の位置を占める存在であり、人情や世相をありのままに描くのがよく、勧善懲悪を諭すは排するべき、が上巻の要旨。下巻の議論は、文語体と口語体の比較など、現代の視点では意義を感じるのは難しい。本書の価値は、明治維新からおよそ20年ののち、江戸時代からの戯作を批判して、日本の近代文学の出発を高らかに宣言したことにある。2021/05/08
イプシロン
35
「小説こそ最高の芸術である」という意気込みが強すぎ、異ジャンル(詩歌・演劇)と比較している疵瑕がある。「小説の主脳は人情なり、世態風俗これに次ぐ」はアリストテレスが『詩学』で述べている文学で最も重要なのはミメーシス(模倣・再現)であると一致するが、現代ではもはやミメーシスなど求められていないのだろう。読んで楽しければそれでよし、またそういう作品しか話題にならないのは、読み手書き手双方の責任であるという潮流は、坪内が勧善懲悪を賛美し、ミメーシスなど顧みられなかった時代への忌避と一致する世情であろう。2019/04/22
リボー
30
神保町の古本屋の店頭に置いてあり、本が夏の日差しできつそうだったので、買い上げた本。かなり朽ち果てていて50円で売っていた。「小説の目的は娯楽を人に与ふるにあり。」という主張がいいなぁと思いました。楽しくなければ小説を読む意味があまりないと自分も思います。2012/07/27