出版社内容情報
日本社会が壊れつつある。経済、社会、どこを見ても分断線が刻み込まれている。分断を超える突破口は、どこにあるのか。
内容説明
なんでこの社会は分断されているのか。所得も、働きかたも、人間関係も、どこを見ても刻まれている分断線。分断を超える突破口はどこに?
目次
1 分断社会の原風景―「獣の世」としての日本
2 分断線の諸相(働く人びとの分断を乗り越えるために;住宅がもたらす分断をこえて;日本政治に刻まれた分断線;西欧における現代の分断の状況―右翼ポピュリスト政党の台頭を通じて;固定化され、想像力を失った日本社会)
3 想像力を取り戻すための再定義を
著者等紹介
井手英策[イデエイサク]
慶應義塾大学経済学部教授。財政社会学
松沢裕作[マツザワユウサク]
慶應義塾大学経済学部准教授。日本近代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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壱萬参仟縁
43
松沢・井出両先生によると、通俗道徳とは、勤勉、倹約、謙譲、孝行の規範(3頁)。公務員バッシングの一方で、親がわが子に公務員になることを希望するさまは、滑稽でさえある。袋叩きの政治、強者への嫉妬、ルサンチマン。租税抵抗。(14頁)。仕事に対する対価としての賃金を、性別や雇用形態等に関わりなく支払われる社会こそ望ましい(30頁)というのは同感。そして、結論では、分断が問題なのは、社会で境界線が引かれ、他者への想像力がうしなわれることで日本社会の一員、日本国民の一人という実感を喪失することという。2016/07/25
きいち
35
分断は日本だけの話じゃないし、今だけのことでもない。まずはそんな当たり前の認識から。ブックレットだけれど、雇用、住宅、心理的側面に西欧の状況と十分に認識の枠を広げてくれる。もちろん答えなんて出やしない、でも「弱者と弱者の間にくさびが打ち込まれ」てしまわないように必要なものとして、「想像力の重要性」は力を込めて語られる、その姿勢に共感する。例えば強者のことを考えれば、このくさび、便利そうに見えて、長い目で見れば「強者」にとっても決して得策ではないことだって「想像できる」から。ならば、橋は架けられる、きっと。2016/07/19
かんちゃん
32
あらゆる事象で境界線が引かれ、彼我が区分けされる。線引きの動機は嫉妬であったり、所得水準であったりと様々だ。なかでも中央大法学部の古賀准教授の論文は、昨今の政治諸相をうまく捉えていて面白い。「右翼ポピュリスト」なる用語は初耳だったが、英国のEU離脱然り、米国のトランプ氏の共和党候補指名然り、橋下氏の維新の会然り、世界の「お騒がせ」の多くがこれで説明できる。現代の諸問題の入門書として、岩波ブックレットがクセになりそうだ。2016/07/25
しょうじ@創作「熾火」執筆中。
28
高度成長が戦時動員体制の問題点を覆い隠してしまい、その延命に一役買っていたこと。それが、80年代以降問題となって噴出していることを、ざっくりと理解できるが、データや年代などはきちんと書き込まれており、手元に置いておきたい一冊となった。「われわれ(=われ・われ)」とは誰であり、どういうことなのかについての「定義」と「再定義」が必要であるとする。弱者の間に楔を打ち込み、対立させるようではならない。対立から「共通の政治」が模索されることの理由であると本書では述べられている。2016/10/23
ゆう。
24
なぜ私たちの社会が分断されているのか、それを歴史的に近代社会の形成史から遡り振り返りつつ、現在の分断線の諸相を①働く人びとの分断、②住宅をめぐる分断、③政治的分断、④西欧における現代社会の分断、⑤想像力の欠如からもたらされる分断、として触れられています。解決策があるというより現状分析が主だと思いました。気をつけないといけないのは分断と階級とは違うということ。分断が排除とつながり、被支配層の中で拡がった時、とても大きな問題が生まれるのだと思いました。2016/06/21