出版社内容情報
妻子ある分別ざかりの男が曾根崎新地の遊女と大坂の網島大長寺で情死した-世間の記憶から瞬時に消える事件を,浄瑠璃に仕立て,古典にまで高めたドラマライター近松の天才的作劇術を1行ずつ原文を読みこみつつ解明する.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
269
一世代、あるいはもう少し前になるかも知れないが、かつての近松研究の第一人者がこの人、廣末保だ。現・法政大学総長の田中優子氏の恩師でもある。本書は『心中天の網島』の上巻から順次、詞章にそって語ってゆく。かつてのこの人の語り方からすれば、幾分冗長な感がしないでもない。著者が若いころに書いた『近松序説』の、凄みがあるほどの切れ味の良さは、残念ながらここにはない。その代わりに、ここではより浄瑠璃的というか、語り物文学の持つ重層性や深みを、近松の書いた一字一句から掘り起こしていくのである。その説得力はいわば絶大だ。2016/06/16
狐狸窟彦兵衛
2
近松の心中天網島を丁寧に現代語訳をした上で、隠された技巧や、掛詞に託された心情や背景がわかりやすく、納得がいきました。文革作品なので、さまざまな読み解きがあるのだと思いますが、原文を我流に読んでわかったような気になっていた、ほんとはちょっと謎の部分も、なるほど!な解説でした。2023/03/30